「デッカイお世話です」

 むすっと顔をしかめて両手袋(ペア)の少女が、片手袋(シングル)の少女2人の間に割ってはいる。
 そろそろ先輩(といっても、所属している会社はみな別々なのだが)2人のやり取りにも飽きてきたのだろう。

「藍華先輩。
 これで回目の同じ質問です」

「だって、気になるでしょ。やっぱ」

 不機嫌そうな後輩につられ、こちらも不機嫌そうな顔を作り、藍華が話題の人物……がしっかりと抱きしめているノート型パソコンを指差した。

「毎日毎日……いったい誰にメール送ってるのよ。
 そろそろ白状してもいいんじゃないの? 灯里」

「えへへ?」

 後輩に守られるような形になりながら、灯里はぺろりと舌を出す。

「アリスちゃんにも、藍華ちゃんにも、アリシアさんにも、
 アリア社長にも……ヒミツです」

 へら〜っと微笑みながらも、パソコンはしっかりと抱いて放さない。
 あくまで白状するつもりはないようだ。
 何故そこまでしらを切るのか……藍華の追求から守る形にはなっているが、やはりアリスも気にはなっているのだろう。
 好奇心を隠そうともせずに、後ろに立つ灯里を振りかえった。

「あらあら、何がヒミツなの?」

「「あ」」

 藍華とアリスの声が重なる。

 いつの間に帰って来たのか。
 ふんわりとした雰囲気と微笑みを浮かべて、大きな紙袋を抱えたアリシアが灯里の後ろに立っていた。

「灯里ちゃん、今日はパソコン禁止よ」

「ええっ!?」

「それから、みんな手を洗ってきてね」

 はわわっと慌ててパソコンを机に置く灯里を尻目に、藍華とアリスは促されるままキッチンに向かう。

「ア……アリシアさ〜ん」

 いつもニコニコと笑っている先輩に、はじめて『禁止』と言われてしまった。
 いったい何をしでかしてしまったのか、またはこれから何か重大なことをはじめるのだろうか。

「灯里ちゃんも、手を洗ってきてね」

「はひ〜」

 とほほ〜っとしょげている後輩に、アリシアは買い物袋を手渡す。
 ノートパソコンよりも重いソレ。
 そこから盛れる甘い香に、灯里はやっと……アリシアが何をはじめようとしているのかに気がついた。

「あ、チョコレート!」

「正解」

 うふふっといつもの微笑みを浮かべ、アリシアは人数分のエプロンを用意していた。

「もうすぐバレンタインですものね」