鍛錬に励む姉の背中を美しいと思う。
弟という贔屓目を除いても、姉の容姿は整っていたし、白い肌とくびれた腰つき、ほどよく締まった四肢を持ち、およそ年頃の娘としては申し分なく、求婚者が列を成しても不思議はない――はずなのだが、姉にそういった話は舞い込まない。
姉自身が女性として生きることよりも、戦士として生きることを望み、両親もそれを許した。
弟の自分が戦士になるよりも、姉の方にその素質があるだろうと――自分もまたそう思う。
両親の選択も、姉の選択も間違いではなかったと。
だからこそ、姉は聖闘士の総本山たる聖域を目指し、日々血の滲む努力を積む。
師の課す課題以上に。
兄弟子がかつて行なった鍛錬以上に。
自分は女性に生まれてしまったから。
性差からどうしても生まれる力の差を、少しでも埋めれるようにと。
どんな時でも戦士であれるように、と。
日々、鍛錬に励む姉を美しいと思う。
年頃の着飾った娘達よりも。
強靭な筋肉を纏った戦士達よりも。
日々、姉が流す汗は、なによりも美しい。
即興小説 15分だったか30分指定 お題「静かな汗」