「んー・・・」
「何を唸っているんだ、アイーダ?」
彼の大切な彼女は紙に何やら書きつけながら唸っている。ひょいと覗きこんだそこには数字の羅列。

 100日=3ヶ月ちょっと
 1000日=2.7年
 10000日=

「何だ?何の計算だ?」
「あのね、トーマス。」
緑色のくりくりとした瞳で見上げる彼女。このきらきらした緑色の光は彼が最も愛するもの。
「10000日っていうと27年にもなるのね。あたしが生まれてから5500日くらい。トーマスが生まれてから12500日くらい。ということはあたしとトーマスの間には7000日の日があるの。」
一体何を言いたいのか。アイーダは時々突拍子も無いことを言い出す。
「まあ、19年といえばそれくらいになるな。」
「7000日っていうのは永久に縮まらないの。」
そりゃそうだが。
「つ・ま・り。あたしが知らない7000日分のトーマスがいるの。その7000日はどうがんばっても縮まらないの。」
緑色の瞳の奥に不安のかけらを見つける。そんなことが気になるものなのだろうか。
「・・・19年ってあたしが生まれてから今までよりも長い時間。そんなに長い時間、トーマスが何をしていたのか、どこにいたのか、何を考えていたのか。そのことをあたしは知らないの。」
ばかだな。そんなことを気にするなんて。
「うん。そうだよね。でも、ちょっと知りたい。」
アイーダに会う前の俺なんか知ってどうするんだ?アイーダを知ってからの俺が「トーマス」という俺。それじゃ駄目か?
「・・・トーマスって殺し文句が上手かったんだね。」
殺し文句は嫌いか?
「嫌いじゃないよ。トーマスにならもっと言って欲しいかも。」
はいはい。お姫さま。では。

1日分を縮めるために
1回のキスを
7000日を縮めるために
7000回のキスを
7000日が縮まったなら・・・

「縮まったら?」

10000回のキスをしよう

そしてこれは最初の1回・・・。