「せっかくあの暑い中をがんばったのに結局変わらないのよねえ。」
「んー、でもアイーダ少し痩せたんじゃない?」
「え、そう?そう思う?」
「うらやましいなぁ、わたし全然変わらないもの。」
少女が二人、先ほどからあの灼熱の砂漠の旅の成果を報告し合っている。
ここはプラネトス2世号の船室の一つ。彼女らの話に呆れる者がここに約3名。
「どうして女の子ってああいう話に夢中になれるんだろう。」
先ほどまで必死の思いで戦っていたのとは別人だよね、フォルトはそう付け加えると付合いきれないというように机に突っ伏した。
「フォルトに賛成。本当に女の子ってわかんないよなぁ、ラップ?」
同感とトーマスが大きく頷き、友人に話を振る。話を振られたミッシェルはため息を吐いて首を振った。
「あなたが私にそういうことを聞くんですか?」
その会話が聞こえたのか少女達が口を挟む。
「トーマスってあちこちの港に女の人が待っていそうだもんね。」
「おいおい、人を色欲魔みたいに言うなよ。」
「え、違うの?」
「・・・違う・・・」
トーマスはすっかりいじけてしまった。さすがに可哀相なのでミッシェルが助け船を出してやろうとすると、矛先がいきなり切り替わる。
「やっぱり、旦那様にするんだったらミッシェルさんみたいなタイプかなあ。」
「大切にしてくれそうだし。」
「そういえばミッシェルさんって奥さんいるの?」
フォルトまでがそれに加わる。
彼女たちの攻勢にたじたじとなっていると、助けてくれなかった仕返しとばかりトーマスがとんでもないことを言い出す。
「だーめ、こいつは俺の。」
ぺたりとミッシェルの背中に張り付いたトーマスに、きゃーと女の子二人が騒ぎ出す。
「よく気がつくし、優秀な魔術師だし。なにより俺にしか懐かない。」
「私はあなたのペットですか。」
相手にしていられないので、煩いトーマスを引き剥がし、船室から逃げ出す。
甲板へ出ると潮風が気持ちいい。しばらく甲板で涼んでいると「あの・・・」と声がかかる。
「何です、アイーダさん?」
勝ち気ではっきりした彼女が珍しくもじもじと言い淀んでいる。仕方がないのでこちらから水を向けてみる。
「トーマスにも困ったものですね。自分で誤解の種を蒔く癖に、あれで人に言われると怒るんですよ。」
「じゃあトーマスって別に女嫌いじゃないのね。」
どうしたらこういう誤解が生まれるのか。あとでトーマスにはきつく言っておかなければならない。それにこの子の前であんなセリフは酷というものだ。本人は一生懸命隠しているつもりのようだが、態度を見れば一目瞭然である。
「あなたはトーマスが好きなのですね?」
アイーダの顔がぽっと朱に染まる。
「よく・・わからないの。陽気で、人懐こくて、人気者で、腕が立って。でも、怒るととっても怖いし。次の行動が予測できなくて・・・。」
思わず微笑んでしまう。この子はトーマスをよく見ている。
「いいことを教えてあげましょう、アイーダさん。犬だと思えばいいんですよ。」
「犬?」
「そう、白くてしっぽのふさふさした大きな犬。」
アイーダは目を丸くしている。
「そう思いませんか?人懐っこくて、機嫌がいいと遊んでくれと寄ってくる。かまいすぎると途中でふいっとどこかに行ってしまうのに、無視しているといつの間にかまた側にいる。大抵は友好的で吠えたりしないけれど、自分の群れのものが危害を加えられると牙を剥いて飛び掛かっていく。」
アイーダはいちいち確認するように頷いていたが、聞き終わると言った。
「やっぱりミッシェルさんってトーマスのことよく理解してるのね。私もがんばる。」
彼女は小さくガッツポーズを作り、甲板を駆けていった。
「私もがんばる、か。」
あの子は思いこんだら一直線だぞ。トーマスも気の毒に。あの子につかまるのもそう遠い将来じゃあるまい。