『魔女』は1歩、また1歩と歩みを進める。
『追跡者』はサク、サク、サクっと静かな足音を立てて歩く。
つかず、離れず、一定の距離を保った優しい『追跡者』の足音。
『魔女』は立ち止まり、空を見上げる。
厚い雪雲におおわれた、薄暗い空だった。
ひらり、ひらりと舞い降りる雪に、『魔女』は白銀の杖を握り締めて。
『追跡者』に振りかえり、微笑む。
「……風が、出てきます」
「そうか」
『追跡者』は短く答え、『魔女』にならって空を見上げた。
「……もうすぐです」
足された言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる『追跡者』に、『魔女』ただ寂しげな微笑みを返すばかり。
『追跡者』にはわからない。
『魔女』には、始めからわかっていた。
『もうすぐ』、『魔女』の旅は『終わる』
産まれながらに未来を見通す力を持っていた『魔女』には、それがわかっていた。
あと……歩進んだ先に、『彼』は現れる。
『彼女』を守るために。
『魔女』を殺すために。
『魔女』の旅は、そこで『終わる』
けれど。
『魔女』は確かに遺した。
それはとても細く、頼りない『希望の道』ではあったけれど。
小石やデコボコだらけの獣道ではあったけれど。
けれど、『希望の道』は決して途絶えない。
『魔女』と『彼ら』の残した『道』を、いつか『子供たち』が歩んでくれる。
いつの日か、必ず。
『魔女』は1歩、また1歩と歩みを進めた。
『追跡者』はサク、サク、サクっと静かな足音を立てて歩く。
つかず、離れず、最期の時まで。