凍り付いた魔女の体を抱き、騎士は思いをめぐらせる。

 静寂を好む魔女のために、静かな場所が良い。
 それでいて、寂しがり屋な側面をもつ魔女が寂しさを感じない場所。
 人目についてはいけない。
 城の女王と占星術師に知られれば、魔女の眠りが妨げられてしまう恐れがある。
 人のため、大地のためと……見返りも求めずに旅を続けた魔女を、これ以上穢したくはない。
 魔女と呼ばれた、わが子とそう歳の変わらぬ娘。
 恋も知らぬまま、逝ってしまった乙女。

(ああ、そうだ……)

 冷たく凍り付いた魔女の体を抱き直し、騎士は魔女を埋葬する場所を自分の記憶の中からしぼりこむ。

(――――――は、シフールのシャリネで蝶を愛でていた)
(聖獣に膝を貸し、――――――は微笑んでいた)

 森が良い。
 そう思いいたり、騎士はアロザへ続く道を横にそれる。
 騎士の腰で、魔女の杖と師に託された剣が揺れた。


 道なき道に、一歩足を踏み出す。
 穢れなき雪の中に、騎士の足が沈みこんだ。

 アロザへ進む道を戻っても、魔女の微笑みを戻ってこない。
 今朝、家を出る前に妻の料理を美味しいと微笑んでいた――――――いつも以上に陽気な娘に、なぜ気づけなかったのだろう。
 彼女は知っていたのだ。
 今日おこることを。
 自分の旅が、女王の元へは続いていないことを――――――