ほんの少しだけ、『怖い』と思った。

 思えば自分は、幼い頃より未来を知ることができた。
 それゆえに身近な者達の死期も知っていたし、自分の死の瞬間までも知っていた。
 それこそ物心がついて、『死』というものを理解してすぐに。
 だからこそ、自分にとって『死』は身近なものであり、恐怖を抱く対象ではなかった。

 それなのに――――――少しだけ『怖い』と思った。



 数歩遅れて歩く騎士の気配に、魔女はそっとため息をもらす。
 自分を殺すために差し向けられた、フォルティアの騎士。
 今は自分の巡礼を見守ってくれている、優しい騎士。

 『怖い』と感じるのは彼のせいだ。

 騎士はこれまで魔女のまわりにいた大人達とは違う。
 彼女を真摯なまでに守ろうとしてきた3人の護人達とも、養父とも違う。
 歳は親子ほど離れているが、魔女と同じ視点で世界を眺め、同じ速度で世界を巡る。
 いわば、生まれて初めてもった『対等の友人』。
 姉妹とも言える娘とは違う存在。
 騎士との出逢いですらも、魔女には予見できていたというのに――――――

 自分の中に、『怖い』という感情が芽生えるとは、魔女にも予見できなかった。

 己の死など、物心ついたころより知っていたというのに。


 まだ生きたい。


 そう願う自分を見つけてしまった。