彼の指が頬を撫で、彼女の顎を持ち上げた。
 少女は彼の深い瞳を見つめ、ゆっくりと瞳を閉じる。

 近付く気配。

 ふわりと自分の前髪に彼の前髪が触れるのがわかった。
 少し、くすぐったい。
 少女はたまらなくなり、彼から体を離すとくすくすと笑い始めた。

「……

 少しだけ低い、不機嫌な声音。

「だって、なんだか変な気分。それに、くすぐったいです」

 密かに想いを寄せてはいたが、いざ『正式に』恋人になってみれば……
 昨日までは『ただの仲間』であった人物が、まるで違って見える。
 頼りになる『仲間』は目の前にはいない。
 目の前にいるのは……ただの『男』。
 愛しくて愛しくて堪らない、一人の男性。
 改めて知らされた事実に、少女は少しだけ戸惑って……はにかむ。

 胸の中の想いは、たった今伝えたばかり。

 にもかかわらず、溢れ出しそうな想いはいったいなんなのか。
 ふわふわと足下がおぼつかない。
 きゅっと目の前の青年の腕を掴み、柔和な光を宿す瞳を見つめた。

「ちょっと、屈んで下さい」

 愛しい少女の願いに、青年は不思議そうに首を傾げながらも身をかがめる。
 その肩に、少女の手が添えられた。

「……大好きです」

 そっと重ねられる唇。
 不器用にも少しだけ逸れていたが。
 先手を打たれ、青年は瞬く。
 再び体を離した少女は、やや恥ずかしそうに青年を見上げていた。