「……で、テメェは何が欲しいんだ?」

「へ? 私が欲しいのは……もう取ってくれたじゃないですか」

 屋台の前、二人並んで立つ。
 両手いっぱいに景品を持ち、楽しそうに微笑みながらはリューグを見上げた。
 意外な才能……とでもいうのか、リューグの輪投げの腕はただものではない。百発百中とまではいかないが、難関な場所に置かれたぬいぐるみや懐中時計といった目玉商品を総なめにされ、先ほどから屋台の主が渋面を浮かべてとリューグを見ていた。

「敬語、禁止な」

「あ……ハイ。 でも、本当に……私の欲しいものはみんな取っていただき……取ってもらったから」

 他に『欲しい』と思うものはない。
 ついでに言うのなら、店主の視線も痛いので……そろそろ別の屋台を覗きたい。

 きょとんっとまたたき、腕の中の『戦利品』を確認するに、リューグは軽く舌うつ。

 おそらく、は気がついてはいない。

 リューグが聞いているのは『の欲しいもの』であって、『誰かの欲しいもの』ではない。
 それなのに……先ほどから彼女が指定する物と言えば――――――

「こっちのウサギの人形はチビに、じゃないのか?」

 リューグが眉を寄せて、ピンク色のぬいぐるみをの腕から抜き出す。

「んで……このなんだかよくわからねぇ人形はアメルに、こっちの髪飾りはミニスに、だろ?」

 『戦利品』の一つひとつの行く先をリューグが言い当てていく。
 たしかに『何が欲しい?』と聞かれるたび、は仲間たちへのお土産を前提に考えていた気がする。

「で、テメェの欲しいもんはねぇのか?」

 すべての行き先を言い当てたあと、返す言葉すらないに、リューグはにやりと微笑む。
 が『欲しい』と挙げるもの全てをとってやったのだ。
 そろそろ『誰かのため』に『欲しい』と思うものもネタ切れだろう。

 今度こそ、少女が本当に望むものを取ってやりたい。

「えっと……じゃあ……」

 滅多に見れないリューグの微笑みに、は少しだけ頬を赤らめてから、視線を屋台に泳がせた。

 一瞬だけ、店主と目があう。

 せっかくの祭り。
 稼ぎ時とはりきって店をだした店主には悪いのだが。

「あの隅にある――――――