(睫毛、長いなぁ……)

ぼんやりと、そう思う。



 ファナンの道場。
 その縁側の柱に寄り掛かりながらうたた寝をしていたマグナは、寝入った時とは変わっている情況に戸惑いながら、護衛獣の少女を見つめる。

 いつの間に隣に来たのか。
 いつからそうしているのか。

 彼女の体重はとても軽くて、肩により掛かられてもまったく気が付かなかった。
 ――――元々寝つきが良く、一度寝たら中々目覚めないマグナの性質も影響しているだろうが。

(唇、柔らかそうだな……)

 軽く伏せられた瞼の奥に、濃い茶の瞳を宿す少女。
 髪と同じ色の睫毛から視線を落とし、ふっくらとした唇を見つめる。

 以前、ちょっとした事故で触れた唇を思いだす。
 彼女の……アメルの唇も、とても柔らかく、甘かった。

(……胸、おっきいよな)

 腕に触れる柔らかな双丘。
 以前ゼルフィルドに指摘され、本人は否定していたが……彼女と同じ歳のアメルや、一つ上のトリス、さらに年上のケイナと比べても、確かに大きめだと思われるそれ。
 優しい丸みをもった彼女の胸は、もう一人の護衛獣少女おきにいりの場所。

(……そういえば、ハサハは?)

 眠るの顔から胸に視線を下げ、失念していたもう一人の少女を思い出す。
 あの幼い少女が、自分の側を離れることはあまりない。

 探した方がいいのだろうか。
 ハサハの歩みの遅さを失念して全力失踪した際、はぐれたハサハが後でへそをまげていたのは記憶に新しい。

 探しにいった方がいいのかもしれない。

 が、そのためには―――――
 マグナが立ち上がるためには、を起こす必要がある。

 穏やかな寝息を漏らすには申し訳なかったが。
 の肩を揺らして起こそうと、手をあげて違和感。

 くいっと下に引かれる感触。
 いつもはハサハがするソレ。
 今はハサハが近くにいないのに、何故? とマグナは眉をよせ、自分の手――――そで口に視線を落とす。

 しっかりと握られた、白い指。
 手を握らないあたりが彼女らしいといえば、彼女らしい。
 の見せる『遠慮』

 やっと『マグナさん』と呼びはじめてくれたばかりでは、仕方のないことかもしれないが。

 もう少し、頼って欲しい。
 そう思う。
 兄や養父に向けるような全幅の信頼である必要はない。

「……君の声が聞きたい」

 始めてあった日、彼女が目覚める前に抱いた思い。
 それとは少しだけ、意味が違う。

 『ご主人様』と『護衛獣』という線引きが消えた今だからこそ。
 彼女の本心を聞いてみたい。

 意見が別れたのならケンカをして、それから仲直りをして―――――

 本当の友達、仲間――――――家族になりたい。

 そう願う。



 とてとてとて……っと、軽い足音が近付いてくる。
 縁側に人がいて、うたた寝をしているのを知っているのか。
 そっと近付く足音が2つ。
 マグナが顔をあげると、角を曲がってきた少女と目が合った。

「おにいちゃん、うごいちゃだめだよ」

 手には軽い掛け布。
 眉を寄せてマグナを睨むハサハと、こちらも掛け布を抱えた少女アメル。

「風邪をひいたらいけないと思って、ハサハちゃんと掛ける物を取って来たんですけど……」

 っと視線を落とし、の寝顔を見つめる。
 目覚める気配はない。
 それから視線を落とすと……の胸が、マグナの腕に触れていた。
 優しく、柔らかく、マグナの腕にふれ、確かな弾力をもって形を変える、まろやかな双丘。

「…………マグナさんには必要なかったですね」

 にっこりと微笑み、アメルは廊下を引き返していった。