「泊めてください」
「帰れ」
開口一番、マグナはそう告げた。
それに間を置かず答えたルヴァイドも、慣れたものである。
「昨夜はイオスの部屋、その前はゼルフィルドの部屋(?)………どういうつもりだ? 最近屋敷に帰っていないのではいか?」
幼い頃から何かと世話になっているマグナは、自他共に厳しいこの男を、少し歳の離れた兄のように慕っていた。
それゆえの、彼を頼っての今夜の訪問である。
「帰れないんだ。いや、むしろ……あの屋敷じゃあ、もう寝れない」
少々言いすぎな気がしないでもないが、マグナは睡眠を何よりも大切にしている。
そのマグナが『寝れない』などと言うとは。
余程の事情があるのだろう。
それは雰囲気でわかる。
それでもルヴァイドにはマグナを泊める事のできない理由があった。
「あの娘が、おまえが帰って来ないと心配していたぞ」
『あの娘』というのは、最近マグナが誤って召喚してしまった少女の事。
生真面目で努力家な彼女は、日々『立派な護衛獣』になるべく、学問・召喚術・武術はもとより、色々なことを学んでいる。
そんな彼女の最近の悩みは『ご主人様の夜遊び』である。
ただでさえ積めこむべき知識・修練が多い彼女。その負担である悩みに、頑張りやの彼女を応援してやりたいルヴァイドが加担するわけにはいかない。
「何故屋敷にかえらん。理由を言え」
「言ったら、泊めてくれる?」
「内容によるがな」
すっと目を細めるルヴァイドに、マグナは観念したようにうなだれた。少し思案するように間を置いてから、ばつが悪そうに、小さな声で言った。
「……が、毎朝起こしにくるんだ」
「結構なことじゃないか」
元々寝起きの悪いマグナ。
それを毎朝決まった時間に起こす人物ができたのだ。歓迎すべき変化だろうに、マグナはなおも言いにくそうに目をそらした。
「だから、『朝』起こしにくるんだ」
「当然だろう。人は朝起きるものだ」
何か問題があるのか? とでも言うようなルヴァイドの視線に、マグナは思い出した。
彼が兄とも慕う男は、顔が良く、背も高い。当然女性にも好かれるはずなのだが……未だ浮いた話しひとつ聞いたことが無い。
「『朝』だよ? 『朝』っ! ただでさえ大変なのに、あの可愛い声で『ご主人様、朝ですよ。起きてくださ〜い』なんて、優しく肩叩かれながら起こされてみなよっ!? 『起きられない』からっ!」
意味の通じないルヴァイドに業を煮やし、思わず叫んだあと……慌てて口を押える。
自分は今、逃げている途中だったと思い出したからだ。
「なるほど、そう言うことですか」
突然後ろから養父のレイムがマグナの頭を掴んだ。そしてそのままマグナを引きづる様にして歩き出す。
「さあ、帰りますよ? 最近あなたが帰ってこないと…さんが泣いていましたから」
「養父さん、見逃し……」
「マグナ?」
奇妙な姿勢ではあったが、なんとか養父を振りかえり、マグナは懇願し―――――――ようとして諦めた。
知らない者が見れば思わず見惚れてしまうような優しい微笑みを浮かべている養父に、マグナは逆に命の危険すら感じる。
今逆らったら、確実にパラ・ダリオの餌食になる。
「夜遊びを覚えた悪い子にはお仕置きが必要ですね」などと物騒な言葉を呟き、かなり奇妙な姿勢のままレイムがマグナを引きずるように歩き出す。
マグナの縋るような視線は痛いが、まあ家庭の問題であるのならば……自分が口を挟むことではない。 そう結論づけて、ルヴァイドはそのまま2人の出ていったドアを閉めた。
それからゆっくりと、マグナの言葉の意味を考える。
朝のまどろみの中。
優しく肩をゆする、少女の手。
『ご主人様、朝ですよ。起きてくださ〜い』と耳元で囁く涼やかで甘い声音と、耳に感じる吐息。
肩に降れるのは可憐に膨らんだ柔らかな双丘。
目を開くと、眼前にある濃い茶の瞳と、漆黒の髪の美少女。
目が合って、『おはようございます。ご主人様』と微笑み―――――――――
「………確かに。『起きられない』かもしれないな」
ルヴァイドはようやく、意味を理解した。
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後書きの類似品。
ミニ劇場第二段…だったはず、です。
まだ本編でルヴァイドが出てこなかったころの……管理人の自己満足にためだけの、ルヴァイド登場でございます。ネタがネタなだけに、よりによって……って気もしますが。まあ、マグナくんもオトコノコだし(爆笑) ってか、ゲーム本編のマグナって、結構………思春期真っ盛りのオトコノコですよね?(言葉を選んだつもりらしい)
ギャグのつもりで書いているので、普段は使わない文章中に『(?)』って表現があるのも、ミニ劇場の特徴といえば特徴かもしれない。
何気なくルヴァイド氏が『むっつり』と評判(おい)
(2004.03.28UP)