最初は本当に。
 本当に、ただ冗談を交わしていただけだったと思う。
 ……そのはずだ。

 そもそも、がソファーで昼寝をするのは今に始まったことではない。
 デグレアにいたころも、ゼラムに身を置くようになってからも、ルヴァイドはが日当たりの良い窓辺でまどろんでいる姿を何度か目にしているはずだった。

 普段なら起こすか、部屋まで運ぶところだったが……今日は違った。

「………ルヴァイドさん?」

 真上にある顔を見上げれば。

「ん?」

 っと滅多に見せないような極上の微笑みを浮かべて、真下にいるを見つめかえす。

 髪と同じ色をした紫紺の瞳と目があい、何食わぬ微笑みに隠された情熱に気がついた。
 恋愛話には鈍いと言われるだったが……さすがにこの情況であれば、それが何を意味するのかはわかる。

 わかるだけに………後ずさりたい。

 とりあえず体制を変えたいと身じろぐ。
 が、ソファーでまどろんでいた所を上からのしかかられているのだ。
 当然、背中にあるのはソファーであって、空間ではない。
 では横に逃げれない物かと目を反らすが……右にあるのはソファーの背もたれ。左にあるのはルヴァイドの腕。
 座っていたところで寝てしまったので、足はなんとか床についていたが……上半身の動きを封じられた状態にあっては、それも意味はない。

「そろそろ……無防備すぎると痛い目を見る、と教えてやらねばな」

 ルヴァイドの片膝を乗せたソファーがギシリと軋みー――――顔が近付く。
 その音がを緊張させた。
 とくんとくんと勢いよく騒ぐ心臓を押えるように胸に手を置き、は身を堅くする。

 ルヴァイドのことは、確かに好きだ。

 それはマグナやレイム、トリスやアメルたちに向ける『好き』とは違う、特別な意味で。
 マグナやトリスに抱きつかれてもなんとも思わない。
 ただ、温かくて優しい気持ちを分け与えられているようで、すごく安心する。

 でも、ルヴァイドは違う。

 温かいとか優しいとも感じるが、その前に――――――の心臓が悲鳴を上げた。
 厚い胸は熱く。優しく抱きしめられれば、逞しい腕を意識してしまってくらくらする。
 安心するまえに、息苦しさを感じる。

 特別に想う男は、ただ抱きしめられるだけでも特別。

 稽古帰りであるはずの少々汗臭い体臭でさえも、気にならない。
 それがルヴァイドという『男』の臭いで―――――

 にとっては、媚薬にも感じられる。

 近付いてきた唇から逃れるように顔をそむければ、そんなことにはお構いなしに、首筋に唇が落とされる。
 軽い音をたてて乾いた唇が2・3回首筋をなぞる。
 それから耳たぶを甘噛みし――――――そのままの姿勢で低く囁いた。

 耳元で囁かれた甘い言葉に、の奥が振るえる。

 『何か』の予感に、無意識に太腿に力を込めた。

「このままここで俺のものになるのと、部屋で大人しく俺のものになるのと、どちらがいい?」

 どう答えても結果は同じなのだが。
 とりあえず場所の選択権は与えられているらしい。

「とりあえず、マリアナ海溝より深く反省するので、今日のところはなかったことに……」

「どこだ? そこは」

 リィンバウムの住人には、の出した『マリアナ海溝』自体がわからない。
 とりあえず律儀に応答を返して、この後に及んでまだ覚悟を決めないに苦笑。

 それから少々……強硬手段に出た。

 微妙な姿勢ゆえに、落ちそうになっているの腰をソファーの上に移動し安定させる。
 それから、きゅっと力が入っているのがわかるの膝を立て、前に押し倒す。
 太腿から抵抗する力は感じられたが、床に足のついていない情況では満足な力は加えれない。
 あっさりとの足は開かれ、その隙を逃すルヴァイドなわけもなく。
 開かれた太腿の間に、自分の足を割り込ませた。

「ル、ルヴァイドさん!?」

「『ここで』がいいのだろう?」

 先ほどの質問に対する答え。
 誤魔化そうとしたへのお仕置きでもある。
 今は家主ともども、他の居候達も出かけて居ないが……ソファーのあるこの場所は居間。
 誰かが帰ってくれば、まっさきに顔を覗かせる、ある意味もっとも危険な場所。

「はうぅ」

 は顔を赤く染め、ルヴァイドの顔が直視できない。
 わずかに振るえているの唇を、ルヴァイドは自分の唇で塞いだ。
 ついばむように繰り返し唇を重ね、最後に深く口付ける。
 侵入してきた口内をまさぐる舌先に、の意識が攫われた。

 緊張して固まっていた身体から力が抜ける。

 行き場無く胸の前で握り締められたの腕を、ルヴァイドは自分の首に回した。

 これで、端から見れば………ソファーで2人仲良く睦みあっているように見える。

 服を脱がせるためにの背中に腕を回し、少し抱き上げる。
 その拍子にの腰が移動し、ルヴァイドの足が太腿の奥に触れた。

「……んぅっ!」

 誰かに『ソコ』を触れられた事はない。
 本人であっても、必要以上には触れない場所だ。
 経験はないが、知識はある。
 『ソコ』は男と女が繋がるところ。

 内腿に感じるルヴァイドの足――――異物に、うっとりとまどろむの意識が覚醒した。

 ぱっと唇を離して、そのままの勢いでルヴァイドの肩を押し戻す。

「こ……こじゃ、ダメですっ! 誰かが帰ってきたら……」

 ミニスやユエルのような少女もいるのだ。
 教育上……居間のソファーで睦みあっている裸の男女など……よろしくない。

 っと、そこまでまくし立てて気がついた。
 自分は今、何を言ってしまったのか。

「『ここ』でなければ……『いい』のだな?」

 の言葉尻を捕らえて、ルヴァイドはにやりと笑う。

 確かに『ここじゃ、ダメ』ならば、逆に言えば『ここでなければ、いい』とも取れる。

「はひっ!?」

 奇妙な悲鳴を上げて身を引くの上から身体を起こし、ルヴァイドは軽々とを抱き上げた。
 そのまま本当に部屋へと移動しようとするルヴァイドに、は慌てて抗議する。

「ルヴァイドさん〜、本気ですか? 本気で……その……」

 なおも言いにくそうに、諦め悪く逃れようとする少女。

 その額に口付けて。

「俺は『ここで』、『立ったまま』でもかまわんぞ」

 っと軽く脅してみれば。
 はポニーテールをブンブンと振って、力強く拒絶した。

「部屋で、お願いしますっ!」

 などと、さらに墓穴を広げてもいる。







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 後書きの類似品。

 乙女のピンチどころか、しっかりお持ち帰りされます(笑) 続きはリクエスト次第(おい)
 元々は……隠し部屋へのワンクッション用に書いた物です(笑)
 まあ、してることといえば―――――アルファベットの『A』とまりので、こっちで公開してもいいかと(笑)
 ちなみに、ルヴァイド氏の名前を変換できる版が、隠し部屋の入り口においてあります。

 微エロの美学………(なしえさん、何を言っているの?)

 いや、だから――――長編のほうの相手がルヴァイド、ってわけでは(苦笑)
 これはこれ、それはそれ、って割り切ってください(爆笑) でなきゃ、他のキャラの夢をかこうとする度に……夢主人公を作らなきゃならないし(笑)

(2004.03.28UP)