歩を進めるごとに1枚、また1枚と脱ぎ捨てられる衣装を拾いながら、はピオニーの3歩後ろを歩く。歩を進める……といっても、とピオニーには決して相容れない……コンパスの差があった。
すなわち、歩幅が違う。
悠然と部屋を横切るピオニーに、続くは小走りと言って良い。
加えて、次々と床に落とされる衣装を拾いながらの追従。
には顔を上げ、ピオニーの背中を見る暇もない。
(上着、金のネックレス、バングルに……ベスト、指輪……)
ピオニーが脱ぎ捨てた物を拾いながら、は数をかぞえる。
腕に抱え込んだ衣装から、普段は身に付けていない香水の香りがした。
(シャツに、肌着に、ズボンに、靴下……)
「?」
右足の靴下を拾い、次に左足の靴下を拾い上げた時、はようやく気付く。
まさかと思いながらも顔を上げ、ピオニーを見上げると――――――
「……陛下!?」
危機一髪。
は、今まさに下着に手をかけていた皇帝陛下を制止することに成功した。
「お? なんだ、気が付いたか」
実に楽しそうに笑いながら、ピオニーはを見下ろす。
最初のうちは、窮屈な正装から一刻も早く解放されたい、と歩きながら上着を脱ぎ捨てたのだが、脱いでいる内に追従しながらも衣装を拾い集めるに気が付いた。あまりにも懸命に、数をかぞえながらもピオニーに遅れまいと続く。ぴこぴこと忙しそうに動く後ろ姿に、ついピオニーの悪戯心が刺激された。
すなわち、どこまで脱いだら彼女は顔をあげるか。
それを試したくなった。
最後の一枚に手をかけながら、口をぱくぱくと開くの様子に、ピオニーは内心で―――面にもしっかりと現れていたが―――微笑む。
してやったり。
はピオニーの思惑通りに戸惑いの表情を浮かべている。
「へ、陛下……あの……」
顔と下着の間を上下するの視線に、ピオニーは最後の一枚に力を込め――――――
「お、お着替えになるのでしたら、すぐに新しい衣装をお持ちいたします〜っ!!!」
腕に抱え持つ衣装に顔を埋め、は深々と退室の礼をとる。
そのまま一度もピオニーと視線をあわせることなく、脱兎のごとくは部屋を辞した。
その後ろ姿に、ピオニーの朗らかな笑い声が続いた。
(……そりゃ、陛下は平気かもしれないけど……)
火照った頬を冷ますように軽く叩きながら、は仲間のメイドにピオニーの着替えを手伝うよう言付ける。ピオニーの脱ぎ捨てた貴金属を専用の部屋に片付けた後、今度は衣装をランドリーメイドの手に預けるため、洗濯場へと足をむけた。
(さすがに、いきなり全裸はきついです……)
自分はメイドで、相手は皇帝陛下。
湯あみから着替えまで、全ての行動に侍従の手が加わるピオニーは、半裸であろうと全裸であろうと、人目を気にすることはない。これに対しては『少しは気にしてほしい』と思うの方がおかしいのだ。ピオニーはそうされて当然の身分にあり、これまでの人生もそうであったのだから。
それにしても――――――
(……いい身体してたなぁ……)
四捨五入をすると40になると言うのに、ピオニーの身体には――――――
「違っ!?」
浮かび上がった不埒な思考に、は歩みを止めて自分の頬を叩く。
(いい身体してたとか、
歳のわりに弛んでなかったとか、
もう少し見てれば良かったとか……何考えてんの……)
次々に浮かぶ不埒に思考に、は少々力を強めて頬をたた――――――いている姿を見回りの兵士に変な目で見られた気がする。悲しい……というよりも恥ずかしい。見回りの兵士は数が多いとはいえ、お互いにここは職場だ。何度でも合う機会はあるし、その度に今日のこの奇怪な行動を思い出されるのだろう。穴があったら埋めたい気分だ。間違っても入りたいとは思わない。
顔を隠すようにピオニーの衣装に顔を埋め、は兵士が通り過ぎるのを待った。
(あ……)
ふわりと鼻孔をくすぐる香りに、は顔をあげないまま瞬く。
暗い視界と、見回りの兵士の足音。
皇帝陛下の召す豪華な衣装は、の両手には重い。
こんな重い衣装を身に付けて、彼は悠然と微笑み、皇帝陛下としての仕事をこなしていたのだ。
(……不思議)
衣装だけとはいえ、自分の腕の中に皇帝陛下の存在を感じる。
否。
存在が、香る。
それは普段は付けられない香水のせいだろうか。
(陛下を、抱き締めているみたい……)
華やかな香りを胸に抱き、は目を閉じた。
(こんなこと、絶対本人にはできないけど――――――)
兵士の足音が遠ざかる。
は、腕の中に閉じ込めた愛しい―――触れることの許されない高貴な―――男の衣装に唇を落とした。
(2007.08.23.UP)
文字打ち久しぶりゆえ、不調ぎみ。
いつか直そう……と思いつつ、ま、よし。
短いのをもう2.3書いたら、連載に戻ろう。
ちなみに、今回のプロット。
『何かの公務で、正装ピオニー。
公務終了後、服を脱ぎ散らかし、いつもの服に。
『皇帝』として夢主に見られる時間を少しでも減らしたい。
夢主、その服を拾い、洗濯に持ち去る。
あまりつけないピオニーの香水がする正装。
本人にはできないので、正装にこっそりとキスをする。』
……全然違うものが出来上がったな(爆)
が腐女子のようだ(苦笑)
切なくも甘くもない……むしろギャグ風味な感じ?