彼女と身体を重ねたのは何度目だろうか。
思い返すことすら面倒だ。
相変わらず、彼女が呼ぶ自分の名はベッドの上でも下でも『陛下』であって、『ピオニー』ではない。
自分が彼女を愛していても、彼女が自分を愛していることはないのだろう。
ただ、彼女は、求める男が『皇帝陛下』だから、身体を開く。
もぞりっと身じろぐの身体に、行為の後の心地よいまどろみからピオニーの意識は引き戻される。
そっと身体を離し、ベッドから抜け出ようとした娘の身体を捕まえ、ピオニーは自分の腕の中に引き寄せた。
「……朝まで、ここにいろ」
何度身体を重ねようとも、がピオニーと同じ寝台で朝を迎えることはない。
どんなにを疲れさせようとも、彼女はかならずピオニーが目覚める時には姿を消している。
ゆえに、寝台の上での行為すべてが夢だったのでは……と、たびたびピオニーは不安にさせられた。目がさめるとそしらぬ顔をしたが部屋に入ってきて、昨夜の行為などありませんでした、という顔をして自分に仕えるのだから。
「わたしは陛下のメイドですから、それはできません」
緩やかな拘束をはずし、はベッドを降りる。
脱ぎ散らかされた自分の下着と服を拾い、それらを身につけると明かりのない部屋でも丁寧に退室の礼をした。
「『また』『いつでも』『おつかい』ください」
身分の違うメイドであるから、同じ寝台で休むことはできないが。
メイドとして皇帝陛下の慰めに、身体を開く事は厭わない。
部屋を辞する華奢な背中を見送ってから、ピオニーは再びベッドに身をしずめた。
つい先程までのいた辺りに顔を埋めて、息を吸い込む――――――かすかにの残り香が漂っている気がする。
「……くそっ」
甘い香りの掻き集める様に、乱れたシーツを引き寄せる。
「かっこわりぃなぁ」
抱き締めているのは愛しい娘の柔らかな身体ではなく。
と自分の汗が染みた白いシーツだ。
鼻を押し付けたシーツから、微かなの香りを探り当てる。
もうは部屋にいないというのに。
ぶるりと反応をみせた己自身に、ピオニーは軽く舌うつ。
もう少し早く『復活』していれば、今ごろ抱いているのはの匂いが染み付いたシーツではなく、自身であったものを。
「……ホントに、カッコ悪りぃな……」
独り言ちて、ピオニーは瞼を閉じた。
閉じた脳裏にの白い身体が揺れていたのは、また別のお話。
(07.02.09UP)
ごめん、陛下。
なんか、やったあとの自分達の匂い嗅いで、復活しちゃう、ただの変態36歳おっさんになっちゃった(待て)