「――――――で、何が欲しい?」
空色の瞳を輝かせ、ピオニーはの顔を覗き込む。
その少年のような表情に、は我知らず高鳴る胸を隠すように身を引いた。
「何も、いただけません」
「おいおい、俺はおまえの欲しい物を聞いているんだぞ?
『いらない』なんて返事は、それこそ必要ないだろ。
これでも一国の主だ。
宝石でも金でも、望みのままだぞ?」
「わたしはただ、与えられた仕事をこなしただけですから」
がしたことといえば、例のごとく逃げ出したブウサギを捕獲し、ピオニーの私室に連れ帰っただけだ。
ピオニー付きのメイドに与えられた仕事としては、極普通。
わざわざ褒美を取らされる程の事でもない。
「そんなことはない。
運悪く料理場に迷い込んだサフィールを、魔の料理人から救った功績は――――――」
延々と続く有り難くも迷惑な謝辞の言葉を聞き流しながら、は考える。
確かに、欲しいものは、ある。
それも、目の前の皇帝陛下にしか与えられない物が。
(――――――あなたが欲しい)
そんなこと、まさか皇帝陛下その人であるピオニーには伝えられなかったが。
自分が欲しいものとなると、それ以外には思い浮かばなかった。
「――――――俺としてはやっぱ感謝とありったけの愛を込めて褒美を取らせたい。
で、何か欲しいものはないのか?」
水色の瞳を輝かせ、悪戯っこのような表情を浮かべるピオニーに、は内心で眉を寄せる。
近すぎる顔に、いますぐ食い付いてやりたい。
誘惑の言葉を吐く唇に、自分のそれを重ねてやりたい。
もちろん、思うだけで、実行はできなかったが。
嗚呼、それにしてもストレスが溜まる。
いっそ、誘惑の言葉を吐く唇に喰い付けたなら、どんなに楽だろうか。
(07.02.09UP)
誘惑は催促。
催促してくる陛下そのものが、フェロモン全開の誘惑対象物、と。
それにしても、うちでは珍しく、情熱的な夢主さんです。