「……んぁ」
てっきり痛がるものだろう。
そう思っていたのだが、違った。
ピオニーの身体の下にいる娘は、彼を受け挿いれたとたんに歓喜の声を漏らす。
試しに少しだけ動いてみたが、どこにも引っ掛かりは感じない。
それどころか、娘の唇からは甘いため息が洩れ、腰がかすかに揺れる。
腰を引いてみても、血は付いていなかった。
つまり、腕の中の娘は――――――
「……初めてじゃないんだな」
「は、……はい」
小さな身体に大柄な身体を受け入れ、はピオニーを見上げる。
「陛下に『御仕え』するのに、『何も知らない』のでは、満足に御仕えできないと。
お側付きになる前に……『教わり』ました」
誰に――――――とまでは答えない。
本人も知らない相手か、名前を出せないような相手なのか。
いずれにせよ、ピオニーが手中の珠のごとく可愛がっていた娘は、初めて彼の前に立った時すでに何者かによって汚されていた。
それも、『皇帝陛下』に仕えるためだけに。
「陛下?」
が処女でなかったことは、構わない。
初恋を引きずって独身を貫いているピオニーであったが、彼とてとの行為が初めてではない。
とかく、最近の市井の娘は早いらしいとは聞いていたし、貴族の娘であれば、政略結婚に使われもっと早い。
が非処女であっても不思議はない。
――――――まあ、多少ショックではあったが。
「……気が利きませんで、すみません」
いつまで経っても動き出さぬピオニーをどう解釈したのか、は押し倒されたベッドから身体を起こした。
「失礼いたします」
は身体を起こし、逆にピオニーを押し倒す。
マルクト帝国最高位にいる皇帝陛下のベッドだ。
多少乱暴に扱っても、彼が怪我をする事はない。
なにしろ、最高級の特注品だ。
柔らかな羽毛が贅沢に使われた掛布も、スプリングもかすかに軋む音を立てたが、それだけだ。に押し倒され頭からベッドに突っ伏したが、ピオニーから抗議の声は上がらない。
「未熟者ですが、精一杯奉仕させていただきます」
自分は彼付きのメイドであるのだから。
気紛れに押し倒されたからといって、彼にすべてを任せてはいけない。
『される』のではなく、『する』のがの仕事だ。
『される』だけでは『御仕え』できないから、自分は他の男に身体を開いた。
恐くなかったといえば、嘘になる。
見知らぬ男に、体中をまさぐられ、未開の地に醜悪な杭を打ち込まれる事が。
けれど、はそれに耐えた。
全ては、こうして皇帝陛下に『御仕え』するために。
下腹部に力を込め、『彼』を締め上げる。
行為事態は初めてではないが、彼を……一番受け入れたかった男を受け入れたのは初めただ。
下腹部に感じた異物感に、の目頭は熱くなる。
皇帝陛下の玉体を踏み付けぬ様、は太ももに力を込めた。
手を付く場所も限られてくる。
まさか皇帝陛下を踏み台にするわけにもいかず、ピオニーの両脇に手を付いた。
中腰に近い不安定な姿勢ではあったが、は尻の穴に力を込め―――こうすると、ソコが絞まり気持ちが良いと『教わった』―――円を描くように腰を動かした。
「……ふぁあっ」
自分の中をかき回す肉杭に、一瞬だけ洩れたため息を飲み込む。
自分が気持ち良くなってはいけない。
あくまでは皇帝陛下に仕えるのであり、ピオニーを気持ちよくするのが自分の役目なのだから。
唇を引き結び、目を閉じる。
繋がったソコだけに意識を集中し、彼の為だけに動く。
自分はいっさいの快楽を感じてはいけない。
自分の快楽すらも、すべて彼の快楽にかえなければ、と。
「んっ……ふぁっ……」
無心に腰を振りながら、それでも声を堪えようと唇を引き結ぶに、ピオニーは冷めた心で手を伸ばす。
欲しかったのは、の身体でも、快楽でもない。
「……」
「はっ、はい」
巧みに腰を振るは、ピオニーの呼び掛けにすぐに応えた。
「もう、いい」
「は?」
「……もう、しなくていい」
の頬に手を伸ばし、汗で張り付いた髪を払う。
自分は、が愛しいから、手を伸ばした。
がどういう立場の人間で、自分がどういう立場の人間であるかも承知の上で。
自分であるから、受け入れて欲しかった。
皇帝であるからと、受け入れられたくはなかった。
「今夜はもう――――――」
「も、申し訳ありません。
やっぱり、わたしでは陛下を御満足させることは……」
ピオニーの制止の言葉に、は一瞬だけ泣きそうな表情を見せた。
それからすぐにきゅっと下腹部を締め、顔を隠すようにうつむく。
「そうじゃない」
技術だとか、身体つきとかの問題ではなく。
「そういう事じゃない。ただ――――――」
「失礼いたします」
締めていた下腹部から力を抜き、は再び力を込める。
一定のリズムを加えながら、今度は腰を上下に動かした。
「、だから……」
「御仕えさせて、ください」
浅黒いピオニーの胸板に顔を埋め、胸の突起にキスをする。
からピオニーに触れたのは、初めてかもしれない。
ねっとりと丹念に嘗めあげるの舌が、ピオニーに『皇帝に仕えているのではなく、ピオニーとして愛されている』のだ、と錯角を与えた。
「……陛下」
切な気にの唇から洩れた名前に、所詮ソレは錯角でしかないと、ピオニーは打ちのめされた。
愛しさから洩れた名前に、愛しい男が傷付いていることを、は知らない。
(07.02.09UP)
と陛下が、お互いにお互いに対して片思いだと良い。
エロくならないように、ならないように……と、抑えて書いてこうなりました(爆)
押さえなかったら、どうなってるんでしょうね(待て)
いや、抑えませんと、一応。