「案外、早かったね」

 夜空に大きく迫った彗星を見上げ、は呟く。

 がマーテル達に拾われて、20余年。
 彗星デリス・カーラーンの100年に一度の恵みを待って70余年。

 ようやく、この時が来た。

 デリス・カーラーンから降り注ぐマナを利用し、ミトスが大いなる実りを発芽させる。
 大樹が発芽すれば、世界は再び一つに再生される。
 それが終れば――――――

「大樹が発芽しても、まだやらねばならない事がある」

 無事、大樹が芽吹き、世界が一つに統合されようとも。
 ミトスが停戦に導いた両陣営には、いまだシコリが残っている。
 それを完全に解きほぐすには、時間がかかるだろう。
 また、人とエルフから差別をうけるハーフエルフが、少しでも受け入れられるように、ミトスは旅を続けると云っていた。クラトスもおそらく、ミトスについていく。

「むしろ、再生された世界にこそ――――――」

「そうだけどっ!」

 につられて夜空を見上げるクラトスの言葉を遮り、はその腕に自分の身体を絡める。
 娘として、妹として、女性として何度も抱きしめられた腕は、しっかりとを捕まえた。

「たぶん、明日の今頃は……」

「みんなニコニコ笑っているよね?」と身を寄せる男の身体にしなだれかかり、は唇を寄せる。
 まだ見ぬ明日に想いを馳せて。





 明日の、今頃――――――大切な養母の命が失われる。








(2005.12.14.UP)