「ナぁニ?」

聞き慣れた低い声に呼ばれ、が素直に振り返ると、その手に小さな指輪をのせられた。

「何? これ……」

きょとんっと瞬いてが首をかしげると、クラトスは幾分気分を害したように顔を背けてしまう。

「……指輪だ」

「ソれは見ればわかる」

問題なのは、何故、突然、指輪をくれたのか、である。
今日はの誕生日でもなければ、何かの記念日でもない。
いくら養父母がに甘いとはいえ、理由もなしに贈り物はしない……という取り決めがあったはずだ。守られてはいるかは別として。
基本的に騎士団の出であるクラトスは、規律というものを守る。
そのクラトスが、率先して禁を犯すとは考えにくい。
では、やはり何かの記念日なのだろうか……と考えるが、養父母達がのために増やしていった家庭内限定で108つある記念日にもあてはまらない。

「……以前、欲しがっていただろう」

言われては首をかしげる。
クラトスの前で指輪を欲しがったことなど、あっただろうか?
そもそもハーフエルフに育てられたは、人間の娘のように着飾ることよりも、森の中に寝転んで昼寝をすることを好む。
装飾品に興味をもった覚えなど――――――あった。
一度だけ、確かに。

「マーテル母様ノ指輪……?」

「あれはユアンがマーテルに贈ったものだからな。
 マーテルも、あれをおまえに譲ることはできない」

「だから、クラトスがくれるノ?」

「……これで、おまえが良ければな」

どうやら、手の上の指輪はクラトスが用意したものらしい。
クラトスが1人で選んだのだろうか?
宝石店に1人で入って、指輪を選ぶクラトスなど、想像しいくい。
想像しにくいが――――――は他愛ない遠い約束をクラトスが覚えていてくれたことが、たまらなく嬉しかった。

「……ありがとう、クラトス」

はにかみながら微笑み、は自分の指に指輪をはめた。







(2005.11.26.UP)