自分の部屋に近づく小さな足音に、クラトスは寝台にもぐりこみ、静かに目を閉じた。




――――――コンコンッ

 低い位置から聞こえる、軽いノック。
 『眠っている』クラトスは、当然それには答えない。

――――――カチャッ

 小さくドアを開いて、軽い足音が寝台に近づいてきた。

クラトスと〜たま、朝だよ〜

 クラトスの知らない言葉で、少女が呼びかける。

と〜たま、か〜たまのご飯、なくなっちゃうよ〜

 寝台から動こうとしないクラトスを、少女は小さな手で毛布の上からクラトスの腕を掴んで揺する。
 それでもクラトスは起きない。
『朝、家族全員を起こす』ことを、少女が自分の使命として喜んでいると知っているから。
 だからこそ、眠る必要のない身体であっても、毎夜寝台に身体を横たえていた。

 恐らく、他の3人も。

も〜、クラトスとーたまはのんびりさんね

『眠っている』ため、クラトスには少女の様子が見えない。
 が、身体を揺する手を止めて少女は諦めたのか、不満気に息を吐いたのはわかった。








 は毎朝、養母とその弟の間で目覚める。

 目覚めたばかりは優しい母の眠りを妨げまいと大人しくしているのだが……美しい寝顔に、彼女が本当に生き者なのかと不安になり、揺り起こす。眠りを妨げられ、怒られるかと思うと……養母は『寝すごしちゃったわ。起こしてくれてありがとう』と優しくに微笑んでキスをしてくれる。
 その瞬間がは大好きだった。

 だからこそ、家族達を起こすのは自分の仕事だと、は決めている。

 養母を起こした後、その弟―――は兄と呼んでいる。を起こそうとすると、『もう少し寝かせてあげましょう』と優しく止められる。

 だから、はすぐ隣の部屋にいるハーフエルフの養父を起こす。
 ハーフエルフの養父は寝起きが良い。がノックをするとすぐに返事をくれる。
 『おはよう』の挨拶をするためにドアから顔だけを覗かせると、寝台の上で身体を起こしながら養父はを手招く。近づくと養母と同じようにキスをしてくれた。

 次にその隣の部屋にいる人間の養父を起こしにいく。
 こちらの養父は寝起きが悪い。
 がいくら呼びかけても、身体を揺すっても起きないのだ。
 仕方がないので、養母の部屋に戻って兄を起こす。

 兄を起こすと、やはり同じようにキスをしてくれる。
 それから人間の方の養父が起きてくれないと報告すると、毎回趣向を変えた知恵をかしてくれた。





 中々起きないクラトスに、今日もミトスの知恵を借りようとはドアに向かい、足を止める。

『?』

 なにかひっかかる。
 ミトスに知恵を借りなくとも、なにか良いアイディアが浮かぶ予感がした。

 はもう一度クラトスを振りかえり、少し考える。

 規則正しく上下する胸。

 その胸に。

――――――思いっきり飛びついてたら、起きるのではないだろうか?










 かくして、の『思いつき』は実行された。




(2005.11.13.UP)