可愛らしく小首をかしげ、はクラトスを見上げる。
幼いころから変らぬ愛らしい仕草に、クラトスは思わず抱き寄せそうになった手を握りしめた。
「どうシて、ダメ?」
きょとんっと瞬き、片言ながら最近になってやっと使い始めた『こちら』の言葉で問う。
「……わからないのか?」
眉を寄せるクラトスに、はこくこくと素直に頷いた。
そのの素直すぎる仕草に、クラトスは天井をあおいぐ。
(精神面の教育をマーテルだけに任せたのは間違いだったかもしれん――――――)
優しくおおらかなマーテルは、弟の母親役を務めただけあって、4人の中で一番子育てに慣れていた。
いわばマーテルにとっては二人目の子供。
任せっきりにしていた訳ではなかったが……一つだけ、忘れていたことがある。
マーテルが育てたミトスは、14歳で時を止めている。
つまり、マーテルはまだ思春期の子供を育てたことはないのだ。
に対して、『そういった』教育を行うタイミングを逃していたのだろう。
否、時を止めている自分たちだからこそ、気が付けなかったのかもしれない。
手足が伸び始め、女性的な丸みを帯びてきた身体……女性としての魅力を十分に持ちながら……は未だにクラトスと同じ寝台に入りたがった。
深く息をはくクラトスの横には腰を下ろす。
持参した枕を抱き、首を傾げながらクラトスを見上げていた。
どうやら、クラトスの話を聞く気はあるらしい……ただし、ベッドの上で。
「……、とりあえず……ベッドから降りなさい」
「どうシて?」
「……」
さて、どう説明したものか――――――返答に困り、クラトスは腕を組む。
その間もはじっとクラトスを見上げていた。
父親としての欲目を抜いても、美しい少女。
癖のない黒髪は肩から零れ落ち、シーツに広がる。
無垢な瞳は大きく開かれ、ふっくらとした桜色の唇はクラトスの物言いが不満なのだろう。『へ』の字に歪められていた。胸元は抱きしめた枕に隠されているが、白い肩は剥き出しになっている。子供の成長は早いというが、が寝巻きにと使っている服もそろそろ限界なのだろう。元々薄着な気がしないでもなかったが。
「……大きくなったら、男女は一緒に寝ないものだ」
「母様とユアン父様は一緒ニ寝てる」
「だから母様ノベッドニは入れなかったノ」と続けては眉を寄せた。
やはり女同士がいいのか、が保護者とする4人の中で、一番甘えるのはマーテルだった。そのマーテルのベッドに入れないから、今夜はクラトスの所に来たらしい。
「……ミトスと一緒に寝てはどうだ?」
いまだ少年の域を出ないミトスであれば、安全圏。
兄妹のように育ったが、女性として成長を始めていようとも『なにか』が起こることはない。
「ミトス兄様は、怖い話スるから、嫌」
むっと眉を寄せると、は自分の枕をクラトスの枕の横に並べた。
(2005.11.13UP)