「〜〜〜っ!!
 もぉぅ! 何度もやめてって、云ってるのにっ!!」

は眉を寄せ、ついにキレた。

「あたしは男の人にメンエキないの!
 ゼロスにとっては『ただの挨拶』かもしれないけど、あたしはされて嫌なの。
 気持ち悪いの! 対応に困るのっ!!」

しいなにならって容赦ない平手打ちを赤毛の美男子におみまいし、は地団駄を踏みながらゼロスを指差す。
(作注:人を指差してはいけません)

「これはもう、ただの『嫌がらせ』と判断しますっ!
 我が国ニッポンの伝統的カクゲン『目には目を、歯には歯を、嫌がらせには5倍返し』にのとって、やり返させていただきますっ!!」

云うが早いか、は荷物を持って、仲間から離れた。




かくして数分後。
ゼロスは『これでもか』という程強烈な嫌がらせを受けることとなった。




「――――――おにっ」

意を決して顔をあげ、口を開いて――――――また閉ざす。
そんな仕草さえも真似してみせる。
本当に『なりきり師』という職業はたちが悪い。

この世でもっとも愛しい少女――――――妹の姿をとるどころか、その些細な所作すら真似してみせる。
先に宣言されているため、目の前の『セレス』がであると、頭では分かっていたが……どうもやりきれない。
なりの『いやがらせ』を軽く交わし、まったく動じずに抱き寄せようと手を伸ばしても、自分と同じ色の瞳に見つめられると、つい伸ばしかけた腕を戻してしまう。

セレスの見せる『壁』を、は見事なまでに見せつけてくれた。

「……ちゃん〜」

「……」

指一本動かせないゼロスを、セレスの姿をしたが見つめる。
セレスが見せる、微かな希望を瞳に込めて。

「……あ〜」

認めるのはしゃくに触る。
セレスが自分の弱点だなんて。
けれど、実際に目の前にセレスの姿で出て来られたら……別人だと分かっていても、手を伸ばすことすらできない。

(俺様、情けねぇ〜)

赤い髪を書き上げて、ゼロスは目を反らす。
それは白旗をあげるようなものだった。
目の前のセレスは悲し気に瞳を揺らして俯くと、小さな声で『お兄様』と呟く。
それから顔をあげると、勢い良くゼロスから顔を背けた。