「……あ」

 ほどよく暖められたミルクを口にはこび、は瞬く。
 ふんわりと甘く広がる味には覚えがあった。

 の記憶にある、おそらくは一番遠い思い出。

「どうした?」

 急に動きを止めた事を不審に思い、クラトスが鳶色の髪を揺らしての顔を覗きこんだ。
 自分の差し入れたものに、なにか異常でもあったのだろうか。
 少しだけ眉を寄せて、少女の返事を待つ。

「あまい、です」

「……そうか」

 のホットミルクに対する感想はひとこと。
 それに対するクラトスの答えも短い。

「でも」っと言葉を区切り、は幸せそうに目を細めて微笑んだ。

「お父さんの味」

「…………そうか」