「……あの、大佐。
もしかして……怒っていますか?」
「おや? おかしいですね〜
私が怒っているように見えますか?」
カーティス大佐の執務室にエスコートという名の『お持ちかえり』をされ、はこわごわと部屋の主人を見上げた。
にっこりと人心を解かす穏やかな微笑みを浮かべ、自分を見下ろす紅い瞳に、は無意識に半歩下がる。
それからすぐに『しまった』と自分のミスに気がついたが……もうどうにもならない。
一見穏やかな微笑みを浮かべる紳士の気分を害するには、十分な反応だっただろう。
「?」
「ハイ! えっと……ごめんなさい。
もう二度と陛下の甘言にはのせられませんっ!」
直立不動で反省の言葉を並べるに、ジェイドは眉を寄せる。
という娘は方便は使うが、ジェイドに対して嘘はつかない。
何やら予想以上に怯えられ、おもしろくはないが……この情況であれば、素直に口を割るだろう。
「……甘言、とは?」
後ろ手にカギを閉め、半歩下がったを抱き寄せる。
逃がすまいと背中に回された腕にびくりとは震えたが、髪を梳く思いのほか優しい指の動きに安心したのか、小さく安堵のため息をはいた。
「……一日メイド服着て陛下にお仕えしたら、3日間大佐の独占権をくれるって話だったんですけど……」
「半日で大佐にさらわれたから、無効になっちゃいました」と続けては残念そうに俯く。
「大佐、毎日お仕事で帰りが遅いから、ゆっくり休んでもらえると思ったんですけど……」
「……ちなみに、私がに独占されている3日間。
私の仕事は誰がするんですか?」
一個師団を任されている大佐という地位にもなれば、一つ一つの仕事に負う責任も大きい。それを3日間も滞らせる訳にはいかない。先日までのように、陛下の勅命で行動してるのならば仕方がないと言えなくはないが、それでも『大佐』という仕事を肩代わりしていた人間はいるのだ。
簡単に休みをとることは出来ない。
「陛下が変わってくれるそうです」
「慎んでお断りいたします」