「……マグ……朝で……よ。……マグナ、起きてください」
「…ん〜…、も……少し……」
軽く肩を叩かれて、マグナは重い瞼を開く。
いつものように起こしに来てくれた黒髪の少女に、2度寝の許可を取りつけようとして……そのまま枕を顔面におしつける。
すでにカーテンを開けられてしまったらしく、部屋の中は明るい。
目覚めを促すために開けられたカーテンではあったが、これでは眩しくて目が開けられなかった。
「…………カーテ…ン」
枕に顔を押し付けたままの姿勢で、カーテンを指差す。
いつもなら、それで多少の睡眠時間の延長が許されるのだが……
「マ・グ・ナ?」
一言ひとことを区切った怒りを含んだ声音に、マグナはようやく気がついた。
今朝自分を起こしに来たのは、いつもの少女ではない。
慌てて身体を起こせば、にこやかに―――――――微笑んではいるが、何故かすごいプレッシャーを感じさせる聖女。
「…アメル? なんで俺の部屋にアメルが?」
あたりを見渡せば、そこはデグレアにあるマグナの部屋。
当然、アメルがここにいるはずはないのだが――――――
「寝ぼけてるんですか? あたしたち、家族になったんじゃないですか」
「だから、さんじゃなくて、あたしが起こしに来たんですっ」っと少しだけ頬を膨らませてアメルが拗ねて見せる。
その仕草は大変愛らしく―――――
「家族になった、って………」
この場合の『家族になった』はやはり……『夫婦になった』ということだろうか。
恋人であれば『恋人』ですむし、ただの友達であれば『家族』とは言わない。
瞬き、情況を整理するマグナに、
「顔を洗ったら、すぐに食堂に来てくださいね」っと、2度寝防止にシーツと枕カバーを回収してアメルは部屋を出ていった。
「まったく、いい歳をして……そろそろ1人で起きられるようになってください」
顔を洗い食堂につくと、珍しく養父が食卓についていた。
もしかしたら始めてではないだろうか。
養父と食事を共にするのは。
「あ……おはようございます、ご主人様。今日のパンはアメルさん直伝ですよ」
養父の隣で忙しそうに朝食を並べているのは、濃紺のメイド服に白いエプロンを身につけた。
着物はいつもと同じだが、揃いのエプロンを身につけての手伝いをしているのはハサハ。
仲良く――――とはいえないが、何故か養父と共にの煎れたコーヒーを飲んでいるのはルヴァイド。
その隣で落書のような顔をしているイオス。
なんとも奇妙な光景だった。
しかし、奇妙ではあるが、『幸せ』な光景でもある。
それから『幸せな光景』と言うには1人足りない事に気がついて、周りを見渡すと……袖を引かれた。
「おはよ、おにいちゃん」
腰より下から聞こえた声に、見下ろせば……昔別れた時のままの、幼い妹のトリス。
「おにいちゃん、あたしも朝ご飯、お手伝いしたよ」
にっこりと笑うトリスは、メロメロに可愛かった。
メロメロに可愛いトリスに、つられてマグナがメロメロに微笑むと―――――――
「何夢みてんのよ、この馬鹿兄貴っ!」
勢い良く、後頭部を殴られた。
振りかえって確認するまでもなく、この声の主はトリス。
それも、手足の成長した―――――『今の』姿。
「さあ、さっさと目を覚ますわよっ!」
袖をまくり、杖を振りまわすトリスの目が輝いているのは……夢だと思いたい。
合掌。
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後書きの類似品。
界の狭間のゆりかご。マグナ編でございます(笑)
前回に引き続き、ギャグテイスト? そこはかとなくマグアメ推奨(苦笑)
ルヴァイドがいるのは、マグナ的に『兄』だから。イオスが『らくがきのような顔』をしているのは……マグナ的に『ルヴァイドの付属品』って認識だから(待て)
『メルギトスの子供たち』における、マグナの理想の風景ですね。父がいて、兄がいて、トリスがいて、アメルとハサハとがいる。母がいないなぁ(笑)
(2004.07.31UP)