柔らかく、繊細な旋律。
 夜の闇にまぎれて奏でられる子守歌。

 暗闇の中、目を覚ます。
 そのまま手を伸ばし、ベッドの中を探るが……慣れ親しんだぬくもりはない。

「………トリス?」

 なおも妹のぬくもりを求めて、手探り。
 すべやかな敷布と、ツキンっと痛む頭に、寝ぼけた頭が目を覚ます。

――――ここは、妹と暮らしていた町ではない。

「………起きてしまったのですか?」

 少し離れたところから聞こえた声に、マグナは身体を起こして答えた。
 ゆっくりと自分に与えられた広い部屋を見渡すと、窓辺に月明かりに輝く銀色の髪。
 月の淡い光ではっきりとは見えないが、膝の上には竪琴。
 どこか懐かしい子守歌を、さきほどから奏でていたのは、その男だったのだろう。
 召喚術の暴走事故の後、大怪我をしたマグナを助け、身寄りのないマグナの『養父になる』っと宣言した人物。

「……トリスは?」

 ぽつりっと呟かれた言葉に、養父の顔が曇る。
 そのまま竪琴を椅子に置き、マグナのベッドに近付いてきた。

「すみません」

 ベッドに座り、マグナの頭を撫でる。
 夜目にもわかる、白い包帯が痛々しい少年。

「トリス……」

 両の手を握りしめ、白くなる己の手をぼんやりと見つめた。

 今マグナが居るのは、慣れ親しんだあの北の町ではない。
 ひもじいながらも、いつも隣にいた妹はいない。
 かわりにあるのは、雪に包まれた知らない街。
 命を助けてくれた『養父』。

「トリス……」

 ひとつ、またひとつと、マグナの手に涙が落ちる。
 妹を想い、歯を食いしばり声を殺して泣いた。

 その隣で、少年の養父はいつまでも頭を撫でていた。







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 後書きの類似品。

 マグナ、レイムさんに拾われた直後。
 本当は長編のほうでちゃんと語らないといけないのですが(笑) まあ、その設定のSSだから、こっちでもいいだろう、と(笑)
 この『メルギトスの子供たち』におけるマグナは、事故の直後レイムさんに拾われています(トリスはゲーム通り、蒼の派閥に送られてます)。それ以来の養父・養子関係。はっきりとした年齢は設定してないですけど、10年ぐらいは一緒にいるんじゃないかなぁ(待て)
 小マグナとレイムさんの親馬鹿への道は、ネタが腐るほどあるので(笑) またそのうち書くかも、です。

(2004.05.06.UP)