選択の自由はあった。
選んだのは自分。
自分で選らんで、この道を選んだ。
だから後悔をしてはいけない。
それが選択権をくれた、愛しい人との最後の約束だ。
雑踏の中に日本人特有の黒髪から頭1つ分背の高い銀髪を見つけ、はぎくりと背筋を伸ばす。
ややあってからそれが銀髪ではないことを知り、そっとため息をもらした。
我ながら、往生際が悪い。
未練とも言う。
は頬を引きつらせると、一瞬だけ自分の気を引いた頭を観察する。
光の加減で一瞬だけ銀髪に見えたが、脱色しすぎて荒れた金髪だ。恋人の銀髪はおろか、天然の金髪の美しさもない、人工的なくすんだ金色。
それでなくても、体付きからしてまるで『彼』とは違う。
鎧のように逞しい筋肉をまとっていた体は細く、浅黒く日にやけた肌は白い。
現代日本のどこにでもいる若者だ。
遠いあの地にいる恋人ではない。
二度目のため息をもらし、は自嘲めいた苦笑を浮かべる。
愛した男と生まれた世界を天秤にかけて、後者を選んだ。
愛する男のいる新しく未知に溢れた世界より、自分を愛する家族のいる慣れ親しんだ世界を。
たった一つを除いて、これまで持っていた全ての在る世界を。
「……いつか」
あの場所での出来事を、白昼夢のように忘れてしまうのだろうか。
あんなにも愛し、深く悩んだ日々を。
そっと3度目のため息をもらし、は顔を上げる。
選んだのは自分。
この世界こそが、自分が生まれた世界。
どんなに愛し合おうとも、あの世界に留まることこそが不自然だったのだ。
これでいい。
自分は何も間違ってはいない――――――
――――――そう何度も心の中で繰り返した。