頬に感じた『不意打ち』に、はゆっくりと瞬く。

 まさか弟のように思っている少年から、そういった行為を受けるとは思ってもいなかったのだ。
 視線を落し、不意打ちをしかけてきた少年を見れば、悪戯っぽい表情とはにかんだ笑顔が混在していた。

「……ミトス?」

「待っていてね。
 絶対に……世界一のいい男になってみせるから」

 の憧れる背中を持つクラトスよりも大きく。
 姉の心をさらったユアンよりも強く。

「ミトスは今でも充分に……美少女よ?」

「……の言う「いい男」って、顔が基準だったの?」

 確かに、クラトスもユアンも顔が良い。

「いや、違うけど、さ……」

 ほんのりと色付く頬を隠すように、は空をあおぐ。
 成長期とはいえ時をとめた少年と比べるのならば、まだの身長の方が高かった。

 ミトスは綺麗だ。
 だが、『格好良い』よりは『可愛い』といったところ。
 常に一緒に行動をとっている今でさえ、時々「あれ? 女の子だっけ???」と疑問に感じる事もあるのだ。
 『男性』として認識するのは……少々難がある。

「とりあえず、わたしの身長を越してから言ってね」

とはぐらかしたならば、

「その言い方はズルイよ。
 僕の時間が止まってるって、知ってるくせに」

 ミトスは眉を寄せて拗ねてみせる。
 それからすぐに何か思いついたように瞳を輝かせると、ににっこりと笑いかけた。

の身長をこせば、いいんだよね?」

「……反則は禁止」

 悪戯っこの笑みを浮かべたミトスに、が間をおかずに釘をさす。
 とたんに面白くなさそうな顔をする少年が愛おしい。

 ミトスはこの『子供扱い』が面白くないようだったが……

「私は、今のミトスが一番好きよ」

 クラトスやユアンとくらべれば、確かに『子供』であったが。
 ミトスの真直ぐな心は、見ていて気持ちがよい。
 どんな苦境であろうとも前を見据える姿勢は応援したくなるし、また共に歩きたいとも思える。

 はミトスの柔らかい蜂蜜色の髪をなで、額に唇を落した。

っ!?」

 突然の行為に、ミトスは慌てて背筋を伸ばす。
 短いようで長いとの付き合いから、彼女が突拍子のない行動を多々起こすことは知っていたが……さすがにこれは予想できなかった。

「ん〜……『不意打ち』の『仕返し』」

「仕返しって……」

 しれっと答えるに、ミトスは気を悪くしたのか眉を寄せる。
 以前『おはようのキス』をした時には……故郷にそんな習慣はなかったから、と熱弁され、二度としないようにと釘を差されたのだが。
 ミトスの知らない間に、が『キス』という行為に慣れてしまったのだろうか。

 なんだか面白くない。

 面白くはなかったが……がキスに慣れたというのならば、容疑者は一人しかいない。
 が常に行動を共にしているのは、自分とその仲間たち。
 男性は2人。
 一人は姉の恋人だ。
 となると……相手はクラトスなのだろう。
 剣の師で、兄のように慕うクラトスならば、が好きになってしまうのもしかたがいように思える。
 姉に恋人ができ、大切なまで誰かの物になってしまうのは寂しかったが……彼女がそれで幸せならば、しかたがない。

「ミトス?」

 俯いた少年に、は不思議そうに首を傾げる。

「ミトス……ミ〜トス?」

 ふにふにっと頬を突いてくるの指を払う気にもなれない。

「うーん……?」

 常なら『子供扱い』と取って、拗ねて見せるミトスが反応しないことを不審に思い、がミトスの顔を覗きこむと……顔を反らされた。

「……ていっ」

「えっ!? うわっ!????」

 両手でミトスの頬を包み、は予告なく頬にキスをする。
 『仕返し』をされたうえ、さらに不意打ちをくらい、ミトスは慌ててから離れた。
 ミトスの頬を離れたの手は、名残惜しそうに空を掴む。

「ありゃ、逃げられた……」

 きょとんっと瞬くに、ミトスは自分の頬を撫でる。
 の柔らかい唇の感触を、確かに感じた。

「……今のも『仕返し』……なの?」

「うん。
 目には目を、やられたら殺りかえせ。
 『仕返しは3倍返し』は、我が国ニッポンのジョーシキ」

「だから……」とは手を伸ばし、ミトスを頬を撫でる。

「あと一回は『仕返し』する権利がわたしにはあるの」

 ミトスの額に額をくっつけ、は蒼い瞳を覗きこむ。

「ね、ミトス。
 本当に……『世界一のいい男』になってくれる?」

 ほんの少しだけ目を反らし、問いかけるの頬が赤く染まっているように見えるのは、ミトスの気のせいではない。

「……約束するよ。
 クラトスよりも、ユアンよりも、絶対、絶対……『いい男』になるって。
 だから――――――」

「待っていてくれる?」と言葉にする前に、3回目の『仕返し』がミトスの唇に落とされた。

 



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