「そう言えばさ、前から聞いてみたかったんだけど……」
友人に付き合った妹探しの旅の終わりに、は隣を歩く少年の顔を見上げた。
「ん? 何?」
穏やかに微笑むマイルの青い瞳に、『ああ、本当に帰って来たんだな』とは嬉しくなる。
……少しだけ、眩しく感じた。
の意識とは関係なく赤く染まる頬を、視線を前方にうつすことで隠すと、アヴィンの背中が見える。
マイルとアイメルに追いたてられるように、ルティスを追い掛けて行ったアヴィン。
大丈夫、あの二人ならばきっとうまく行く。
そう確信して、アイメルと3人で見送った。
「……怒らない?」
「怒るようなことなら、最初から言わなきゃいいじゃないか」
「じゃ、やめとく」
いつもの調子で切り返し、が口を閉ざしたのを見て、マイルは少しだけ後悔した。
『前から聞いてみたかった』という事は、今までは思っていても言えなかったのだろう。
それを今……やっと聞こうとしたところに、悪いことをしてしまった。
「……なに?」
「いや、言わなきゃいい、って言ったし……」
「そりゃ言ったけどさ、何か聞きたいことがあったんだろう?」
「ちょっと聞きたかっただけだから、いいよ」
こうなってしまっては埒が明かない。
賢者レミュラスにアヴィンと共に育てられたは、アヴィンと血こそ繋がってはいないが、頑固さという一点においては実の姉弟のように似ている。もしかしたら、アイメルも負けないぐらい頑固なのだろうか。そんな話を、旅の途中に聞いた気がしないでもない。
とにかく、一度言わないと決めたのならば、今を逃せば次にがこの話を持ち出してくるのは当分先になるのだろう。
失敗した、そう思う。
「気になるから、言ってみなよ」
簡単に編まれた少女の髪を軽く引っ張る。
少なくとも、こういった『呼び方』をすれば、怒って振り返りはするはずだった。
案の定、少しだけ眉をよせながらは振り返った。
「怒らない?」
「怒るかもしれないけど、怒らないよ」
「どっちよ、それ」
「次第、ってことじゃないかな?」
マイルの言葉には、今度ははっきりと眉を寄せた。
黒い瞳を寄せてマイルを見上げ、言い淀むように視線を泳がせる。
それから決心がついたのか、はほんのりと頬を赤く染め、ぎゅっと両手を握りしめると――――――
「マイルとアヴィンがおホモ達って本当!?」
などと大きな声で宣った。
これは、どう答えるべきなのだろうか。
マイルは本気で悩んだ。
そもそも、幼いころよりいつも一緒にいたがそんな誤解をしているとは思わなかったし、そう思われるような兆候でも、自分達には見られたのだろうか。
だとしたら、この誤解をとくには相当の時間と労力が必要になる。
はとにかく頑固で、思い込みも激しい。
ヘタをしたら、これまで過ごした時間と同じ時間をかけていかなければならないのではなかろうか。
マイルは一瞬だけ真っ暗になった目の前に、倒れそうになるのをの肩を掴むことで堪えた。
この誤解だけは、なんとしても……どんなに時間がかかろうとも、解かねば成らない。
マイルがそういった対象として見つめているのは当然アヴィンではなく――――――なのだから。
「参考までに聞くけど、誰にそんなこと吹き込まれたんだい?」
頼むから、『前から思ってた』などと答えないで欲しい。
すがるような思いでマイルはの目を見る。
「ほへ?
王都からヴァルクドまでの間、結構色んなところで聞かれたの。
アイメルとか、エレノア先生……あ、ルキアスさんにも聞かれたかな?」
首を傾げながら『ソレ』を聞いてきた人物の名前をあげるに罪はない。
罪はなかったが――――――
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