じっとリューグの背中をみつめ、は首を傾げた。

「なんだよ」

 視線がそれたのが解ったのか、タイミングを測ったかのようにリューグが不機嫌そうな声を出した。

「なんでもない、です」

 リューグのいつもと変わらない態度に、はますます首を傾けた。
 それから思う。

(やっぱり、絶対……アメルさんとトリスさんの勘違いだと思うけど……)

 小さくため息を吐き、は作業を再開する。
 アメルからありがたくも申し渡された本日のお役目『枝豆の筋を取る』作業。
 本来はアメルとトリスとの3人でやっていた作業だったのだが……そこでの繰り広げられる女の子同士の会話。タイミングよく帰宅したリューグの登場に、気を利かせたつもりのアメルとトリスに、仕事を押し付けられてしまった。
 3人分の仕事を押し付けられる手前、アメルがを手伝うようリューグに言ってはいたが……不機嫌そうに背中を向けられていては、逆に作業がやりにくい。
 どうにも居心地が悪く、は逃げ出したくもあった。

(……勘違い……かぁ)

 と頭の中で反芻して、は少し肩を落す。

 『そんな』はずはない。とわかってはいた。

 リューグの態度を見ていれば解る。
 リューグにとって特別な女の子アメルなのだ。
 アメルやトリスが言うように、『リューグはのことを好き』という事実はありえない。
 少しだけ残念に思いながら、は作業に没頭する。
 とにかく早く仕事を片付けて、この居心地の悪い空間から逃げ出したい。
 それだけを年頭に視線を落した。

「なんでもないです、って顔じゃねぇぞ?」

 以外に近くから聞こえた声にが顔をあげると、すぐ近くにリューグの顔がある。
 相変わらず不機嫌そうに眉が寄せられてはいたが、瞳の色は優しい。
 そんな違いを判別できるほどの近くに、リューグの顔があった。

「……あいつらに何か言われたのか?」

「そんなこと、ないですよ」

「じゃあ、なんで怒ってンだよ」

「怒ってなんか、いないです」

 だんだんと不機嫌さを増すリューグの言葉に短く答えて、はまた首を傾げる。
 確かに自分は『怒って』いる。
 そんな気は毛頭なかったのだが、今の答えはそう取れる。
 これではその気がなくとも、リューグと喧嘩をする羽目になってしまう――――――そう気がつき、は深く息を吐いた。

 いっそ、本人に聞いてしまおうか?

 そんな考えが頭をよぎる。
 このまま誤魔化そうとしたらリューグと喧嘩になるし、黙っていても結果は変わらない。
 ならば、全て話して笑い話にしてしまった方が、の気は楽だ。

「……ただちょっと、冗談をいっていただけですよ」

「冗談?」

 正面を向き、枝豆に手を伸ばしながらリューグが相づちをうつ。
 そのいつもと変わらぬ態度には幾分気持ちが楽になった。

 このまま自然に言ってしまおう。

「アメルさんとトリスさんが言ったの……
 リューグは私のことを好きなんじゃないか――――――って」

 そんな訳、ないですよね? っと、気を抜くと寄りそうになる眉に力を入れて、は精一杯の虚勢で小さく笑った。
 リューグの返事を聞くのが怖くて、すぐに俯いたにはわからなかったが。

 しっかりと枝豆を握りしめ、固まったリューグの顔は赤い。


 さて、真偽の程は?

 


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