「ねえ、もしも。
 もしも……アンナさんより早く、私と出会っていたら……
 クラトスは、私を一番に想ってくれた?」

 これは言葉遊びに近い。

 クラトスの答えは最初から決まっている―――――というか、予想できた。
 けれどは聞かずにはいられない。
 ささやかな言葉遊びに、ささやかな希望を込めて。

 その希望が叶えられるはずはないと、解っていたが。

「ありえんな。
 ……と言うよりも、想像できないと言った方が正しいか。
 アンナと出会わなかった私など」
 
 ほとんど動かないクラトスの表情に、はそっとため息をつく。

 予想どおりの答え。

 クラトスにとって、はやはり二の次、三の次。
 取るにたりない存在なのだ。
 解りきってはいたが、一蹴されるのはさすがに面白くない。
 せめて少しぐらい考えるそぶりを見せてほしかった。

 だから、精一杯の嫌味を込めてクラトスから顔を反らす。

「そうだよね。
 アンナさんが一番じゃなくて、ロイドなんかどうでもよくて、ノイシュも放置なクラトスなんて想像できないし」

「そんなクラトス、不気味だよね」と肩を落としながらため息をつくに、クラトスはようやく気がついた。
 自分が何を言ったのか。
 が何を望んでいたのか。
 気がついたが―――――クラトスには前言を撤回することはできない。

……」

「知ってるよ。
 ってか、解ってる。
 クラトスは、そういう人だって」

 そう呟いて、は盛大にため息をついた。

「まあ、それ知ってて好きになっちゃたんだし……諦めるとします。
 一番にはなれなくても、クラトスの大事なものランキングの上位にはいるみたいだし」

 はあっとは本日何回目かのため息をつく。
 そのがっくりと落とされた細い肩に、クラトスは手を伸ばす。

……人の話は最後まで聞くものだ。
 アンナと出会わなかったことは想像できない。
 しかし……おまえと出会わなかった私も、私には想像できない」

 そこまで言って、クラトスは自分の額に手を当てた。

「私は器用ではないから、上手く言えないのだが――――――」

「いいよ、言わなくて。
 っていうか、何言われても、嘘くさい」

 何か汚い物でも払うかのように、クラトスの手をは自分の肩から退かす。

「私がクラトスを勝手に好きなだけ。
 『もしも』の話にすら夢を見させてくれない……融通の利かない馬鹿男が、大好きなだけだから」

 随分な言われようであったが。
 クラトスには、それに対して抗議の声をあげることはできない。
 確かに、の言うとおりなのだから。

「下手な言葉はいらないの。
 だから、クラトスの答えが『正解』。
 ……それでも欲しがるのは、私の我侭」

 言葉を求めた自分を恥じ、しゅんっと俯いたに、クラトスはつられてため息をはく。

「人の話は最後まで聞くものだと、言ったばかりのはずだが?」

 クラトスはの体を抱き寄せる。
 抵抗はなかった。
 はすっぽりとクラトスの腕の中に落ちつき、俯いている。

「順番をつける必要はない。
 アンナはアンナで、おまえはおまえだ。
 、私は――――――




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