母親ゆずりの顔だちと、父親ゆずりの色を持ち、少女は横に立つ男を見上げる。
濡れたように潤んだ鳶色の瞳に見つめられ、同じ色を持つ男は指先ひとつ動かさまいと、全神経を集中した。
『触れてはならない』と自分に言い聞かせながら。
もしもあの日、諦めずに目の前の少女を探し出していたのならば。
自分の手元におき、掌中の玉のように慈しみ育てていたのならば。
亡き妻の面ざしを宿していても、『娘』として見守っていられたはずなのだ。
「クラトスがあたしのこと子供扱いしたって、
あたしはクラトスのこと、男の人として好きだからね」
真実を知らない『愛娘』は、決して男のことを『父親』としては見てくれない。
少し歳の離れた男に、幼さを残しながらも『女』として自己主張する。
年頃の娘らしく成長した躯と、無垢な笑顔を最凶の武器に変えて。
ほんのりと頬を染め、幼い言葉で告げる愛。
応えることは赦されない。
「……、私は――――――」
鳶色の瞳を傷つけることなく、距離を取らせる言葉を探すが、思考はうまくまとまってはくれない。
を抱き寄せまいと指先に全神経を集中しているのが仇となった。
言葉を探せば、愛しい女を抱き寄せようと指が動く。
触れまいとすれば、言葉が出てこない。
クラトスの沈黙をどう受け取ったのか、先に動いたのはだった。
「先手必勝〜」
にこりと微笑みクラトスの肩に手を添える。
止める間はない。
背伸びをしても届かないと知っているは、軽く飛び跳ねてクラトスの唇に口付けた。
勢いにまかせた、不器用にそれた唇。
それすらもクラトスには愛しく感じる。
「あ、怒った?」
眉を寄せたクラトスに、はきょとんっと瞬いて首を傾げた。
「……初めて……ってわけじゃないよね?」
答えない男に、少女は心配げに眉を寄せて顔を覗きこむ。
深い魅惑を秘めた鳶色の瞳に、理性の抵抗も空しく。
クラトスの指はの頬を撫でる。
「……?」
添えられた手を払うことなく、はクラトスを見上げていた。
よもや、自分の想いが受け入れられるとは思っていないのだろう。
無垢な瞳に、怯えはない。
軽く唇が振れただけのキス。
今ならまだ、娘から父に贈る『親愛のキス』で終わることができる。
けれど――――――
「クラトス? 怒ったの?」
けれどクラトスは、の唇に己の唇を押しつけた。
血をわけた愛娘の唇に。
理性が必死に欲望を引き止めている。
それはわかった。
わかったが……一度でも愛しい少女に触れてしまえば、そんなものは紙も同然。
理性の壁は呆気なくも欲望の前に消えうせて、後は貪るように唇を重ねる。
深く侵入し、少女の素肌に手を伸ばすのに、時間はかからなかった。
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