「男の子になりたかったなぁ……」

 ぼんやりと呟く声に、いったい何を見ているのかと、マイルはの視線を追う。
 そこにあるのは別段いつもと変わらぬ風景。
 魔法大学を抜け出して遊びに来たラエルがアヴィンに突撃――――――もとい。じゃれつき、軽くあしらわれている。

「やっぱ、男同士だと……遠慮がなくていいなぁ」

 はしみじみとラエルに対して羨ましそうにため息をはいた。

「ぼくはが女の子で良かったと思うけどね」

「え? なんで?」

「なんでって……聞くようなことかなぁ」

 きょとんっと瞬き首を傾げたに、マイルは小さく肩を竦める。
 アヴィンもそうだが、もなかなか鈍い。
 賢者レミュラスがおおらかに育てた結果ではあるのがだ……さすがに少々鈍すぎる気がしないでもない。
 だからこそ、自分にもチャンスが残ってると言えるのだが。

 それにしても……鈍すぎる。

 自分はいつだっての気持ちを優先して考えているのに。
 彼女はマイルの気持ちに気付くこともなく、のんびりと――――――無邪気に異性に抱き着くことをためらわない。
 兄妹のように育ったアヴィンだけならばまだしも、トーマスやマーティ相手にもそれをやるのはいただけない。あの二人は誰が見ても、に対して確実に『男』という態度をとっている。
 気がついていないのは本人とアヴィンぐらいなものだろう。

「絶対、男の子の方が良かったよ。
 あたしが男の子だったら、山に入るのだって、川遊びだって、置いてかれなかったし」

「絶対、は女の子でよかったと思うよ」

「だから、なんで?」

 なおも納得いかないと首を傾げる少女に、マイルはほんの少しだけ意地悪をする。

「知らないよ。たまには自分で考えてみなよ」

 鈍すぎるが、マイルの答えに辿りつく日が来るのかは、はなはだ疑問であったが。
 少女の気持ちが自然と自分に向くのを待つ事に、マイルが少々焦りを感じ始めているのも事実。
 アイメル探しの旅で世界中を回り、いろいろな異性をは見て来ているのだ。
 いつまでも見晴らし小屋とウルト村が、世界の全てであった子どもではいられない。
 マイルも、も。

「マイル兄ちゃんのケチんぼ」

 べーっと可愛らしく赤い舌を覗かせて、拗ねて見せる少女。
 その短く切られた後ろ髪に手を伸ばし、マイルはを引き寄せる。

「そろそろ髪を伸ばしたら?
 それから、僕はのこと『妹』だなんて思った事、一度もないからね」

 これぐらい言っておけば、さすがの少女も気がつくだろうか。

 ――――――その考えは甘かった。

「私みたいな妹はいらないってこと?」

 むっと眉を寄せる少女に、マイルは最後の手段にうったえた。


 


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