(またやっちゃった……)

 とほほっと肩を落してが歩く。
 先頭を歩くのはロイド。
 続いてコレットとジーニアス。
 少し遅れてリフィルが続き、最後に特徴的な燕尾のマント。

 クラトスの背中を少しだけ恨めしそうに見つめてから、は横を歩くノイシュの首を撫でた。

(これじゃ、確かに子どもだよね……)

 深くため息をはく。

(やっぱり、怒ってるかな?)

 うずまく思考に誘われて、はノイシュの柔らかい毛を軽くひっぱる。
 ノイシュは嫌そうに首を傾げているが、毛を引っ張られる不快感よりも、の様子がおかしい事に気を使ってくれているらしい。
 首を傾げながらを見つめる瞳はとても優しい色をしていた。

 少しだけ遅れて歩きながら、は小さくため息をはく。

 そもそも、悪いのは自分である。
 多少――――――まあ、かなり? リフィルとクラトスがあわてて回復魔法を使う程には無茶をした。

 それはも充分に解っていたし、反省もしている。
 が、クラトスの低い声に静かに諭されると、ロイドではないが、反発したくなるのは何故だろうか。
 助け合うべき『仲間』であるはずなのに、他よりも一線の引かれた『大人』の意見が歯がゆい。
 クラトスはお金で働く『傭兵』だ。
 ほとんど素人の集団である自分たちが『仲間』と認識しろ、と言う方が無理があるのかもしれないが。

 しかし、それでも……クラトスとの間に距離を感じるのが寂しかった。

(……あれ?)

 俯いた視線の先に、クラトスの靴が見える。
 は顔を上げないまま、首を傾げた。

 諭されて、つい反発してしまった手前、気まずくて少し遅れて歩いていたはずだったのだが……。
 ぼんやりとしていたおかげで、いつものペースで歩いていたのだろうか?

 いつの間にかすぐ近くに、クラトスがいる。

(……なんで?)

 どうしてだろう? とほんの少しだけ頭をあげて、クラトスの横顔を盗み見ると――――――目が合った。
 鳶色の瞳が長めの髪の隙間から、の方を見ている。

 あわてて視線を地面に戻し、気がついた。

 自分の歩くペースが早くなったのではない。
 クラトスがのペースにあわせて歩調を落したのだ。

(……大人、だなぁ……)

 注意されて反発し、拗ねて歩調をおとした子どもに、気付かれないように歩調を合わせて歩く。
 反省を促すのでもなく、黙って側にいてくれる……

「…………ごめんなさい」

 本当に小さな声で、クラトスに聞こえるかどうかは謎であったが。
 は俯いたまま呟く。

「……いや、気にしていない」

 クラトスの短い返事に、はようやく顔をあげた。


 


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