絵本


「じゃあ、今日は本読もうか」
「ん」
 そう言って、アルルゥがカミュの言葉に同意する。外はどんより曇り空と言うのも遊べない原因である。が、一番の理由は、近々戦争になるから、しばらくここでゆっくり出来ないというのもあった。
「あの……だったら、これを読んでくれますか?」
 そう言って、一冊の古びた絵本を差し出した。



 昔々のあるところ。そこに一組の夫婦が住んでいました。
 とても仲が良く、幸せそうな夫婦でした。

 ある日、妻の様子がおかしいのです。
 ただ具合が悪いのかとも思いました。けど何日も続いたため、妻も元気がありません。
 そこで、夫は元気がでるようにと、妻の好きな木の実を探す事にしました。

 が、探しにでようとすると、妻が止めます。しかし、そんなに危険な場所にある訳じゃないので、ただの心配のしすぎだと、夫は言いました。
 それならと、妻は自分の髪を一本とると、夫の小指に結びました。そして、夫にも同じ様にしてほしいと、頼みました。
「こうしていれば、貴方と一緒だから」
 

 そう言って、妻は夫を見送りました。
 一日。二日。三日。夫は帰ってきません。 
 その間も、妻は小指に結んだ糸が切れないように、大事にしていました。


 そして、ある夜、急に喉が渇きました。フラフラと水を飲もうと台所へ。とそこに、夫が立っていました。見ると体はボロボロ。
「や。山の中で迷って」
 夫は方向音痴だったのです。そして、手を差し出しました。そこにはしっかりと結ばれた髪の毛がありました。
「これが、ここまで引っ張ってくれたんだ」
 聞くと、ずっと糸を誰かが引っ張ってくれていたんだと言うのです。。
 夫はそのまま引き寄せられるまま、妻のお腹を触ります。
「この子が……」
「引っ張ってくれたんですね」




「こうして、家族三人幸せに暮らしました。とさ。めでたし」
「ん〜」
「ふぅ〜。でも、これ……結構読んだんじゃないの?」
 そう、カミュが尋ねる。まあ、まさか直球に、ボロボロとは聞きにくく、言葉を選んだのだが。
「はい」
 そう言って、ユズハが嬉しそうに微笑む。
「この御本……、一番最初に読んでもらったから……」







「ハクオロ様…………」
 そう言って、ユズハは髪の毛を一本取ると、ハクオロの指に結ぶ。ハクオロもユズハの小指に髪の毛を一本結んだ。
「また……会えるおまじないです」
 そう言って、ハクオロの手を握り締める。
 また会える。この指の糸が結ばれている限り…………。

 

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