ぬいぐるみ

「なあ、アズリア。これ、ひょっとして……」

「ん? なんだ、どうかしたか?」

 アズリアの見舞いに来たレックスは、ふと彼女の枕元にあるものに目を留めた。

「ほら、これ」

「ああこれか――って、わぁ!」

 レックスがひょいと摘み上げたものを見て、ベッドに横になったまま軽く流そうとしたアズリアだったが、次の瞬間もの凄い速さでそれを奪い去った。

「みみみ見た……か?」

 それを胸元に抱え込み、真っ赤になって問いかけるアズリア。

「当たり前だろ」

 レックスはアズリアの慌てぶりが可笑しくて、思わずくすくすとわらってしまう。

「まだ持っていてくれたんだな――」

「あう……」

 彼女が抱き締めているそれは、何の変哲もない子犬のぬいぐるみ。
 2人がまだ学生だったころ、レックスがアズリアに贈ったものだ。

「ま、まあ捨てることもないだろうしな」

「それで、寝るときにはいつも抱いてるのかい?」

 随分使い込まれているように見えるのに、糸がほつれたようにも見えない。よほど大切にしているか、小まめに補修しているのだろう。

「だ、誰がそんなことするというのだ!」

「ハハハ、分かった分かった。そういうことにしとくよ」

 子供のようにむきになって反論するアズリアを、レックスは優しい瞳で見つめるだけだった。

「何が分かったのだ、全く……」

 なおもブツブツと文句を言いながらも、胸の中のぬいぐるみを見つめる彼女の目は嬉しそうな色を湛えていた。

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