この手の中に


 鮮やかな赤い髪と、青い瞳。
 あの彩りに魅入られてしまったのは、いったいいつのことだったのか。
 気がつけば、いつも姿を追っていた気がする。

 愛人の子と蔑まれ、実の父親にすら表立っては手を差しのめられない少女。
 優しい言葉をかけたいのに、つい心とは反対の言葉を言って傷つけてしまう少女。
 本当は大切に、守ってあげたい―――――たった1人の少女。

「結局、手にいれることはできなかったな」

 彼女が引き継いだ石も、彼女自身も。
 宝玉ごと閉じ込めて手に入れた少女は、結局自力で自由を手に入れてしまった。
 彼の魔力をもってすれば、捕まえることは易い。
 が、それでもそうしないのは……彼女が見つけてしまったからだ。
 手をつなぎ、共に歩きたい誰かを。

 遠ざかる赤い髪を、追いかけることはできなかった。

 ただ一言出てきた真実の言葉も、遅すぎた。

「……幸せになれ、サーシャ」

 手に入れることはできなかったが。
 彼女を想う気持ちは変わらない。

 この手の中には、幼い日に掴んだ赤毛の感触。
 心の中には、自分を睨む敵意のこもった青い双眸。

 記憶の中の彼女は、自分だけのもの。
 彼女の心を攫った黒髪の青年でさえも、それだけは連れ去ることが出来ない。

 幼い記憶。

 幼い―――――――

■□ 100のお題-TOP □■