背中


「おと〜さん、あのね……」

「こら、アルルゥ? ハクオロさんのお仕事のじゃましないのっ」

 ハクオロの背中にぴったりとくっつき、背中ごと肩を揺する妹にエルルゥが眉を寄せる。
 いつもなら実力行使で引き離すのだが……今日エルルゥが手をださないのは、熱いお茶ののったお盆を持っているからだった。

 エルルゥの両手はふさがっている。

 それを知っているので、窘められたアルルゥはちろりと姉に視線を向けただけで、ハクオロの背中から離れようとはしなかった。
 それどころか――――――――

「エルンガー、うるさい」

 ぼそりと一言。
 それから見せつけるようにハクオロの背中に頬を寄せ、気持ち良さそうに喉を鳴らす。

「ん〜、おと〜さん」

 すりすりすり。

「………ア、アルルゥ〜っ!」

 だんっと足を踏み出してエルルゥがアルルゥを威嚇する。
 『仕事の邪魔をしちゃだめよ』というよりは、『自分だってそう言う事をしたい』という羨む心があるのは認めよう。
 少々大人気ない気も確かにする。
 なにより、ハクオロを父と慕うアルルゥには、エルルゥがヤキモチを焼かなければならないような感情が含まれていないこともわかっている。

 が、それでもこればかりは譲れない。

 自分だって我慢しているのだ。
 『仕事の邪魔しちゃダメ』という言葉を免罪符に、なんとしてもハクオロからアルルゥを引き離したかった。

「ハクオロさんっ!」

 勢い良く湯飲みを机に置き、ハクオロの隣に膝をつく。
 ぴったりとくっついているアルルゥにちょっとだけ目をやってから、むぅっと眉を寄せて愛しい男を見上げた。
 『ハクオロさんからも、なんとか言ってくださいっ!』と訴える瞳に―――――――――

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