『電子回路』



 『彼』は『猫』が苦手である。

 『怖い』とか『匂いが嫌だ』というのが理由ではない。

 戦闘用の機械兵士である『彼』は、多少頑強に作られているとはいえ精密機械。
 『猫』の細く小さな毛とはいえ、内部に侵入されたら少々のトラブルを引き起こすこともある。

 だから『彼』は『猫』が苦手である。
 ――――妙に好かれてはいるが。

「あれ? またですか……ゼルフィルドさんって、モテモテですよね」

 ふんわりと微笑む顔がまるで春の日差しのようだ、と『彼』の上官にいわせしめた少女が顔を覗かせる。
 紺色のワンピースと白いエプロン。
 仕事の途中らしいはあきれたように微笑み、『彼』の肩や足元にまとわりつく猫を抱き上げた。

「こんなに可愛い子にモテモテで、何が不満なんですか〜?」

 にっこりと笑うの顔に、ふっと思う。

「『猫』ハ苦手ダ―――――――ガ」

「『が』?」

「好マシイ『猫』モイル」

 時々猫に囲まれて立ち往生している姿に、意外に思ったのだろう。
 はきょとんっと瞬き、『彼』を見上げた。

「毛の短い猫ですか?」

「イヤ――――――『長イ黒髪ノ甘エン坊ノ仔猫』ダ」

 臆病で警戒心が強く、そのくせ一度心を許すと甘えて擦り寄ってくる。
 そんな仕草が仔猫のようだと、『彼』の上官が穏やかに微笑んだ。

 漆黒の機械兵士は、それを覚えている。


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