皆が安心してずっと楽しめるギルドを作りたい。 それがギルドマスターになったリュオの願い。 かつて自分が経験したような、心が壊れる程に辛い思いをさせる事のないように。 そう志して作ったギルドも、自分以外が来なくなり解散した。 ほぼ二人きりのギルドになっても最後までいてくれた、そして突如この島を去った子。 彼女以外の仲間も何らかの不満を持っていたのかもしれない。 自分にとってこのギルドは最高のギルドだった。 だけど、皆にとってそうではなかったのだろう。 皆を守りたいと思いながら、一番守りたかったのはきっと自分。 結局は、自分の事しか考えていなかったんだ。 元より自分はギルドマスターの器ではなかったのだ。 その後、リュオはどこのギルドにも属さず、黙々と狩っている事が多くなった。 フレンドリストを開いても、カバリア島に相手がいると示す光は1かゼロ。 その1人とは、最初に所属していたギルドの頃から付き合いのあるラークだけ。 彼は何度かギルドに誘ってはくれたがリュオは断り続けていた。 最初の理由は自分でギルドを作るため、そのギルド解散後の理由は自分でもよく分からない。 だがギルド無所属に慣れると、逆にどこかのギルドに所属する事が怖くさえなってきた。 一人でいれば、もうギルドでのトラブルは何もない。得るものも失うものもないのだから……。 ++ 再出発 ++ 週末に開催されるコロシアムでのギルドバトル。 傭兵として数時間だけギルドに属し、共闘する。 一時的とはいえ、この行為で一人の寂しさを少しは紛らわす事ができるように思えた。 「リュオさん、今日もよろしくー」 「よろしく」 先週雇われた所と同じギルドに今日も雇われた。 その後、傭兵希望を出していた二次狐も雇われ入ってくる。 これで今日のメンバーは決定。 参加メンバーで簡単に役割分担の打ち合わせを行い、後は対戦相手を待つ。 それまではたいていどこのギルドでも雑談をしている。 元々そのギルドの所属でないリュオは他の者達の会話に耳を傾け相槌を打つ程度の事が多い。 「なぁ、キネさんとこのギルド解散するってマジ?」 キネと呼ばれたのは先程傭兵として雇われた二次狐 ここではよく見る名前だ。 どうやらこちらの傭兵参加の狐は普段は他のギルドに所属しているらしい。 ギルドバトルの時だけ一時的に普段のギルドから抜け、傭兵参加というのは珍しいケースではない。 「ああ、今月末で解散する」 「また+化以前の時代からのギルドのひとつがなくなるんだねえ。寂しいな」 どこかは知らないが、古くからのギルドらしい。 他のメンバーが問う。 「キネさんのギルドってどこ?」 「『swim like a stone』」 (「!」) そのギルド名には聞き覚えがある。 ラークが現在、不在がちなギルドマスターに代わりその任を務めているらしいギルドだ。 「swimかぁ……名前は見たことある。ギルドバトルでは見ない所だね」 「ギルドバトルに出ないギルドだから、キネさんは傭兵で来てるんだろ」 その通りだと笑いが起こる。 「キネさんもカバリア島から去っちゃうの?」 「私はここに残るが、殆どのメンバーは別大陸に一緒に行くらしい」 その後のやり取りはリュオの耳には殆ど届いていなかった。 (「ラークもここを去るのか……?」) リュオにとってラークは今では唯一人の友達。 だがギルドに所属し付き合いの幅も広いであろうラークにとっては、自分は多くの中の一人なのだろう。 (「だったら、解散を教えてくれなくても不思議はないか」) ギルドバトルがはじまる。 リュオは黙々と傭兵としての任をこなした。 いつものような共闘する事からの高揚感はない。 勝利のアナウンスも、一枚の曇りガラスを隔てたかのような遠くで聞こえた気がした。 平日は黙々と狩りを行うリュオ。 だがその心情は穏やかではなかった。 (「ラークは俺に何も言わずに去っていくのだろうか」) 今頃はギルド内での連絡や何やらで忙しいのだろう。 何せギルドマスターの代理役なのだから。 光るフレンドリストが気にかかって仕方ない。 こちらから聞いてみるべきだるうか。 このまま何の話もなく突然別れる事になれば後悔する……。 それは以前のギルドにいた時の事からもよく分かっていた。 だが、自分から聞く事はできそうになかった。 そうして同じ島にいても会う事のなかったラークとようやく会えたのは数週間後。 「リュオ!話したい事があったんだ。なかなか時間とれなくてさ」 (「やはりか……!」) 遂に来たラークからの切り出し。 覚悟はしていたが、心音が跳ね上がる。 「はな……し……?」 「ああ、大切な話だ。リュオには絶対に話しておきたかったんだ」 嫌だ、聞きたくない。 そんな態度がどこか現れてしまったのだろう。 ラークは不思議そうにリュオの顔を覗き込む。 「……リュオ、なんだか機嫌悪くないか?最近、放っておいたから怒った?」 「そんなことはない」 カバリアを去るのはラークの自由だ。 去る前に話しに来てくれた事も嬉しい。 「いろいろあって忙しかったんだ。悪かったよ」 「だからそうじゃないと言ってるだろ!」 「じゃあ本題入る。俺のギルドにメイファちゃんっていう二次羊がいるんだ」 「……うん?」 いきなりの知らない名前に首を傾げる。 「彼女と結婚する事になったんだ」 「は?」 「なんなんだよその反応は〜〜。友人の結婚宣言に『は?』はないだろ!」 ラークは不満そうに口を尖らせる。 予想とは違う話の展開にリュオは呆けるばかり。 「リュオには本当の事話すけどさ、結婚は口実なんだよね。 ただ、今月末に解散の決まった今のギルドで最後に皆で何かしたかったんだ。 でももう公開イベントを開催するような気力は皆残っていない。 身内の結婚式なら気負わず集まってくれるかなってさ。二人で決めた」 「そんな理由で結婚していいのか?」 「いいんじゃないか?お互い納得の上でだよ」 「そういうものなのか……」 「人によって考え方は違うけどな。俺達の場合はそんなに重く考えてのものじゃない。 もしもメイファちゃんに他に結婚したい人ができれば、今回のはなかった事にする」 メイファちゃんは俺よりもずっと前からカバリアにいる。 詳しく話したくはないみたいだけど結婚も初めてってわけじゃないらしいよ、と付け加える。 「それでここからが重要。なあリュオ、一緒にギルドを作ろう」 「ギルドを……?」 思ってもみなかった申し出に一瞬、心が揺れる。だが 「ラーク……俺はもう、ギルドを作ったり入るつもりはないんだ」 「だったら俺が作ったギルドで、俺がギルドマスターでも駄目か? 本当は今のギルドの解散が決まった時に持ちかけようかと思ってたんだけど リュオは頻繁にGv出てるから何れどこかに入るつもりなのかと思って遠慮してた。 今まで通りGvに参加したい時だけ抜けるってのも勿論ありだからさ」 「……」 カバリアに残って欲しいと思っていたラークが残ってくれる。 自分とギルドを作りたいと言ってくれている。 長くつきあいのあったラークとならやれるのではないかという期待。 だけど、一度失敗しているのだ。 たった一人の友達さえこれで失う事になってしまったら……。 「はいストップ。すっっっごく難しく考えてるだろ」 ぺし、と軽く頭を叩かれる。 「お試しでも何でもいいからやってみようって。俺のこと嫌いじゃないならさ」 「嫌いなわけがないだろ」 「はいじゃあ決まり」 がしっ、と握られる手。 「ここで長く多くの経験をしてきた今の俺達なら、できる」 友人のギルドの最後を知り、自分の所属するギルドの終了を目前にしてこの言い切りよう。 (「ここまで言い切られると否定もできないな。いや、否定したくないのか」) 諦めただけで、消えたわけではなかった。 ―皆が安心してずっと楽しめるギルドを作りたい。― その思い。 「ギルドマスターはそっちだからな」 今度こそ、叶えられるかもしれない。 「ああ!」 自信満々に言い切る、彼が一緒なら。 戻る |