「赤ちゃん、欲しいな…」
口癖になってしまった言葉


その瞳が、俺とよく似たあの人を追っている事を知っている。
俺だってあの人の事は好きなんだ。
二人が幸せになってくれればとも思っていたのに
現実には結ばれたのは俺とあなた。
どうしてうまくいかないのかな。

初めてくれた俺への…いや、俺達恋人への労いの言葉
凄く凄く嬉しかった。だけど同時に酷く寂しいものを感じた。
…もしかして、あなたは諦めてしまったの?
その日から彼をデートに誘うのはいつも俺。
彼には他にも恋人がいたが、
現在独身で、結婚の為のドレスを持っているのは俺だけ。
そして彼は…昔、あの人の為に買った指輪を持っている。
相性は良かった俺達が結婚するのは時間の問題だった。
俺は勿論彼の事が好きだったから嬉しかった。
だけど同時に申し訳なくもなったんだ…
そんな事、誰にも…慕う兄にすら言わなかったけどさ。

愛情がないわけじゃないって分かってる。
ただ俺はきっと、あなたの一番にはなれないだけ…。
それでも俺はあなたをデートに誘い出す。

「寝室?」
「だって俺達夫婦だからなっ♪
 1度くらい夫婦らしい場所で愛を深めてみません?」

俺よりも年上の、俺と同じあなたの恋人である人が教えてくれた。
自分の子が欲しいとあなたは願っていた事を。
それは俺との子供が欲しいという意味ではないのかもしれないけれど。
条件が整った為に結婚までしてしまった俺達。
俺が幸せになることが望みとあなたは言ってくれたけど
俺はそれだけじゃ満足できない。
あなたの子が欲しい。あなたと夫婦であった証が欲しい。
前夫との間にはついにできなかった子供。
前夫は他に残してくれたものもあったけれど、
あなたと俺の間に残るものは愛を深めた記録だけで
それも時間の経過と共に薄れていって、何れ履歴から消えてしまう。
他の恋人達とは違うもの、夫婦であるからこそ求める事が許される命

我侭と自分勝手と罵ってくれても構わないから。

「もう結婚したんだから…避妊しなくてもいいよ?」
彼は困ったように笑って、ゆっくりと俺の身体を寝台へと横たえた。




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