「マゲちゃん」

「マゲちゃん起きて」
「う〜〜んあと30分…え…?」
聞き覚えのある、だが聞こえる筈のない声に思わずドルマゲスは飛び起きた。
そして目の前で笑っているのは誰よりも何よりも愛しい旦那様
「エイト殿おおお!?」
「マゲちゃん2年ぶり」
天寿を全うし、空へと旅立った人が今自分の目の前にいる。
これは幻?だがおそるおそる触れた手の平のあたたかさは幻などではない。
「帰って来てくれたんですか!」
「マゲちゃんがこっちに来たんだって。お疲れ様」
「エイト殿…エイト殿…エイト殿おお!!会いたかったですよ…!!」
名前をひたすら連呼し、背を屈め夫の胸に顔を埋めたまま動かない。

ただ、その肩は小さく震えていて。

「マゲちゃん」
エイトは目を細めながら銀髪を救い上げる。
「2年ぶりに愛深めしようか?」
そしてこれだ。再会して間もないのにこれだ。
だが自称『紳士な妻』であるドルマゲスは嬉しそうに応えるのだ。

「エイト殿…私はいくらでもつきあいますよ!嬉しいなあ嬉しいなあ♪」


――5時間後 


「無理!もうこれ以上は無理ー!!マゲもう若くないんだって!」
「マゲちゃんの無理はまだ平気って事でしょう?
 ここでは年なんて関係ないし、それなら僕の方が上なんだけどなー」
「エイト殿は特別ですよ!何たって竜神族…って無理って言ってるのに!!」


――それから次の日。

毎日規定の時間に天寿を全うした者が天上の世界へと訪れる。
今日のその中にはエイトの愛人であったマルチェロの姿もあった。
彼は天上マップ(天上界発行・無料)を頼りにエイトの家へと訪れた。
地上の時と何ら変わりないその家の銅鑼(インターホン)を叩く。
反応はなかったが鍵はあいていたので声をかけ中へと入る。
一直線に向かうは客間でもリビングでもなく、寝室
「失礼する」

寝室の中にはやはり彼―いや、彼らがいた。
「マルチェロさんも来たんだね。お久しぶり」
「あ、ああ…奥方は大丈夫なのか…?」
視線の先には寝台の中、うつ伏せのまま微動だにしないドルマゲス
説明されずともマルチェロには何があったのか分かってしまう。
長年エイトの愛人としてこの夫婦を見守ってきただけのん事はある。
「マゲちゃん?全然平気だよ。久しぶりで疲れさせちゃったかな。
 でもマルチェロさんが来てくれたなら回数は半減するし
 今度は足りないって言われたらどうしよう」
にこにこ笑顔でエイトはマルチェロの腕を掴んだ。
その力の込め方に嫌という程覚えがあるマルチェロは思わずあとずさる。
「私は今からもう1人の恋人の元へも…」
「彼も複数の恋人持ちでしょう?遅れたほうがいいって。長居はさせないから」
彼が引き寄せる寝台には彼と、疲れきって熟睡する彼の妻がいる。
「待て。まさか奥方が眠られているここでやるつもりなのか?」
「マゲちゃんこれだけ熟睡してれば隣に落雷しても起きないから」
その小柄な体躯からは考えられない力で
マルチェロを自らが横たわっていた寝台に引きずり込む。
「非常識ではないか!…って、やめっ…」



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