「こーんにちはー」
聞きなれた声にマルチェロは読書の手を止め玄関へと向かう。
玄関で既に靴を脱ぎ廊下にまで侵入していたのは愛人のエイト
奥様のドルマゲス(この時点で凄いものがある)は
恒例の受けちゃった事に対する自己嫌悪で部屋の隅に引き篭もったらしく
旦那様は愛人である彼の家に来たというわけだ。
慣れたリビングで寛ぐエイトにマルチェロはミルクを出しながらも
一応気になることを聞いておく。
「奥方を放っておいて構わないのか?」
「放っておいて欲しいんだよ。帰る頃には笑顔で迎えてくれる。
 立ち直りの早さはマゲちゃんのいい所だね」
そんな事を毎回繰り返しているらしい主ドル夫妻は
傍から見ると危うく見えつつも上手くいっているらしい。
「心は攻でも受属性だから気持ちいい筈でしょう。
 僕は攻属性だから実感できるわけじゃないけどそうなんだよね?」 
「あー…ああ、そう…だな…」
聞かれたくないような所をダイレクトに聞かれてマルチェロは顔を伏せる。
「まずは身体から受に染め上げようと思って頑張ってるんだけどな。
 マゲちゃんも変な拘りは捨てて受属性での旨味を堪能すればいいのに」
出されたおいしいミルクを一気飲みし、傍の籠にある蜜柑に手を伸ばす。
「僕は下手じゃないと思うんだけどな。身長は負けてるけど
 難しい体位がある程度でやり易いのを選んでやれば差し障りはないし
 パワーもテクニックもそれなりにあるでしょう?」
「ああ、それは愛人の私ならよく分かる…って、そうではないだろう?」
エイトは蜜柑を頬張りながら首を捻る。
マルチェロは顔を僅かに赤らめながらも落ち着いた様子で諭すように続ける。
「お二人は惹かれあい愛し合い結婚までしたのだろう。
 奥方が受ける行為に抵抗があるだけならば何も
 無理に…その、そういった事をしなくてもいいのではないか。
 そういった行為がなくとも離れる事はないと思うぞ」
「マルチェロさん…」
「まだまだ時間はある。あせらずゆっくりと…」
「それは嫌だ」
「え?」
「僕、マゲちゃんの事は身体も含めて好きなんだよ?
 二人きりで我慢できるわけない。1秒だって待ちたくない」
「…エイトさーん?」
「それくらいマルチェロさん分かってるかと思ったんだけどなぁ」
蜜柑の皮をゴミ箱に放り投げ、濡れた指先を舐め上げる。
その仕草に愛人として寝台の上で対峙する時の彼を思い出し顔を赤らめる。
彼はそれを見逃すような鈍い相手ではない。
「知ってるでしょう?恋人同士としての付き合い長いんだし…
 一番は奥さんだけど、あなたの事だって愛してるんだから」
「お、おい…?」
「せっかく来たんだし期待に応えなきゃね」



「エイト殿おかえり〜」
すっかり立ち直ったらしいドルマゲス(妻)は
夫の足音を聞きつけ、ただいまの前に玄関先まで走り寄ってくる。
「ただいまマゲちゃん。はい、お土産のおいしいミルク」
「ありがと…。あ!マルチェロ殿の所行ってた?」
ミルクの入った袋がマルチェロ宅近くのスーパーである事に
即座に気付いた妻は、浮気を咎める様子など全くなく聞いてくる。
「うん。お話とエッチしてきた」
それに何の躊躇いもなく堂々とありのまま答える夫
「そっか!連続で疲れひとつ見せないとはさすがエイト殿…。
 夕飯出来てるから着替えたら早く来てくださいね〜」


今日も三角関係は三角関係なりに上手くいっているようだ。


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