「兄貴にエイト、こんばんはー…って、アレ?」
いつものようにルーラで不法侵入した先は夫妻の寝室
いつもはこの大きな天蓋付ベッドで夫妻仲良く横になっている。
だが、今日そこにいたのはマルチェロ一人。
「エイトは?」
「今日は仕事だ」
「ふーん…」
「だからさっさと帰れ…って、何をしている?」
不法侵入者はマルチェロが横になっている寝台の上へと上ってきた。
「旦那がいなくて疼く兄貴の身体を慰めてあげたいなと…」

「帰れ」

M字額にうっすらと浮かぶマジ切れ5秒前の証
引きどころは心得ているククールは即座に否定する。
「冗談だって。んな事したらあとでエイトに
 三日三晩は足腰立たない程お仕置きされちゃうからなー。
 多分意味なく兄貴も巻き込まれそうだし」
「それはその通りだな」
珍しく意見のあった二人だ。


「いつまでこんな茶番劇を続ける?」
寝台の淵に腰掛けて、所在無く足をぶらぶらと揺らすククールに
声をかける。
「だって俺二人とも好きだしさ。前にも言ったけど
 兄貴達の仲を裂こうなんて思ってないよ…それでも駄目?」
駄目と言っても聞きはしないのはよく分かっていた。
「お前は常識というものを持ち合わせていないのか」
「常識より俺は好きなものは好きだからしょうがない!って
 その気持ちを大切にしたいんだ」
「お前は…」
「何?」
それは小さな声であったがククールは聞き逃さなかった。
「本当に救いようのない馬鹿だと、今更だが確信しただけだ」
「……」

シーツが動く音。
「入って来い」
少し不機嫌そうだが、拒絶するものではない言葉の内容に
ククールの足の動きが止まる。
「…いいの?」
「誤解はするな。ただ、そんな所に座られていては私が眠れん」
「…ありがと、兄貴」
ククールは上着を脱ぎ、シャツだけになって寝台へと入り込んできた。
「その格好で寝るつもりか?」
「寝間着ないんだよ。どうせ全部脱がされる予定だったし?」
「全くお前という奴は…好きにしろ」




「ねーねー、何してるの?」
「何だ…って、エイト殿!?」
反射的に身を起こそうとしたがそれは叶わず。
目の前には仕事で帰ってこない筈の旦那様の姿があった。
何故身を起こせないのか。答えは簡単。
彼の身体の上にシーツ越しでエイトが乗っかっているからだ。
「何で隣でククールが裸で寝てるの?」
「それはこの馬鹿が勝手に来たので仕方なく…って裸ぁ!?」
何とか視線をそちらに動かすと、確かにそこには上半身裸の弟が眠っていた。
「おい起きろ貴様!何故服を脱いでいる!?」
その時間帯を気にしない大声にククールの瞳がゆっくりと開く。
「う〜〜…まだ眠い…ありぇ?エイトと兄貴が合体してる…」
「で、さっきまで二人で合体してたわけだ」
「うん…?」
まだ覚醒していないらしいククールは肯定も否定もしない。
「誤解だ! こら貴様寝ぼけてないできちんと説明をしろ!」
「うん…やっぱ服皺になると嫌だなーって思ったから脱いだ」
ようやく最初のマルチェロの質問に答える始末。
「そっか。服脱いでからやったんだ」
「うん?」
「起きんかククール!!」
エイトはマルチェロの上から退き、今度はククールの上へと移動して
ぺちぺちとその頬を軽く叩く。
「エイト…?」
「おはよククール。お兄さんを襲う時は僕の許可取ってって言ったよね?」
「へ?何?何なんだこの状況…」
ようやく意識が覚醒したらしいククールの顔から血の気がひいていく。
「お仕事早く終わった事だし、僕も混ぜてもらおうかな」
「ちょっ、待てエイト何の話っ…!!」



やはり巻き込まれる事になりそうなマルチェロは大きくため息をつく。
何やら大変な事になっている向こうに目をやれば
無邪気な笑顔でおいでと手招きする夫の姿。
どうやら今夜も眠れそうにはないようだ。



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