お父様は好きよ?
私のために、働いてくださるんだもの。
お母様も好きよ?
お父様と仕事をする姿は、とても格好がいいから。
でも、でも本当は・・・・・・・・・・・・。
鞄から出した瞬間に、グシャリと握りつぶす。
学校から貰った『授業参観』についてもプリントは、誰に見せることもなく、ゴミ箱へと放る。
いつも、そう。
お仕事が忙しいお父様たちは、いつも朝早くに家を出て私が眠った頃に帰ってくる。
顔を会わせることが出来るのは、私が頑張って早起きしたときの数十分か、何か特別な日だけ。
・・・・・・・授業参観になんて、来ることはなかった。
「僕が行くよ」
それは私が正式に叔父様の家に預けられることになった年の、初めての授業参観の時。
いつものように捨てようとしたプリントを、架愁が勝手に見てしまった。
「何で捨てるの?ご両親に見せてくださいって書いてあるけど」
「見せなくても良いわよ。お父様たちは来れないんだから」
「仕事が忙しいから?」
「そうよ、なのにこんなコトで迷惑掛けたくないわ」
「迷惑って、そんな・・・」
子供を迷惑だ何て思う親はいない?そんな言葉は、聞きたくもないわ。
「まぁ栗杷様がそう思うなら、構わないけど」
想像した言葉以外のセリフを吐き、架愁は悟ったような笑顔を見せた。
「なら僕が行っても良いかな?」
「は?」
「お父さんとは行かないけど、お兄さんあたりならいけそうじゃない?」
クルリと一回転してポーズを取る。悟った笑顔とは打って変わっての、子供みたいな行動に。
「・・・バカみたい」
思わず吹き出しそうになって、不機嫌そうな顔で誤魔化した。
同情なんて、いらないの。そうじゃなきゃ、お父様とお母様に申し訳ないもの。
「良いわよ。でもお兄さんなんていらないわ。ちゃんと両親揃って来てよね」
ちょっとした意地悪で、提案して見せた。
授業参観の内容は『家族工作』
私の知らない人なんて、親として連れてこないでよね。
近所の人もダメ。迷惑を掛けるわけにはいかないから。
でも本当にお父様達を連れてくるっていうのは、絶対にやらないでよ。
そこまで言って『出来るの?』って聞けば、架愁はニッコリ笑って『出来るよ』と言った。
そして当日。授業参観の日。
約束通りに架愁は、授業参観に訪れた。
「・・・何で俺が・・・」
「まぁまぁ、たまにはこ〜いうのも楽しいじゃん」
「てかお前はキモイぞ」
「うっそぉ。似合うと思うけどなぁ〜」
とグダグダ文句を言う羅庵を父として。フリルのスカートで女装した己を母として。
そして『家族工作』で作り上げた架愁母特製ロボットは、クラス中で一番の注目を集めた。
帰り道。手を繋いで歩く。
右手に父。左手に母。何度となく願った光景。
いつもなら重たいランドセルは、両手の温かさ分だけ軽く感じて。
そんな中で。
「これからは僕が授業参観に行くからね」
中傷の目も気にせずに母を演じきった架愁に言われた言葉。
ナニモノにも囚われないように見えるその笑顔に、見惚れた瞬間だった。