ルヴィア嬢短編劇場 エロチック その3

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目次

朝靄のニンフ

1

 朝。

 己が胸を玩ばれる感覚に、ルヴィアゼリッタは目を覚ました。

「……ん、シェロ。やめてください」

 まだ寝たりない。なんでこんな朝っぱらから求めてくるのか。心地よいまどろみの時間を断ち切ろうとするなんて、世界で最も忌むべき大罪ではなかろうか。寝ぼけているとはいえ、ルヴィアゼリッタはなかば本気で思考した。

「残念。士郎ならとっくに出かけたわ。あいつ、今日は朝から講義だから」

 肩をすくめる影の主。その、透き通った水晶のような声は、ルヴィアゼリッタに親愛と不快感を混ぜ合わせた感情を与えるのが常だった。

「……ミス・トオサカ?」
「ん、目が覚めた? ……まだみたいね。さっさと外した方がいいわよ、それ」

 ルヴィアゼリッタの首筋を指す細い指。胡乱な頭ではその意味をしばし理解しかねて、やっと気付いた時には、数分の時が流れていた。

「きゃっ! やだっ!」

 首に巻かれた皮製のそれを急いで外して、ルヴィアゼリッタは赤面した。全てを思い出してしまったのである。凛がここにいる意味を。自分が首輪をつけていた意味を。そしてなにより、二人が一糸纏わずにいるその意味を。

「ルヴィアゼリッタ?」
「大丈夫。目はさめました。……そうですか。結局、負けてしまったんですね」

 衛宮士郎、彼女の執事でもある男が、閨の中では別人のように自分達を玩ぶのが悔しくて、昨夜ついに二対一で仕返しを図ったのである。

 本来ならば、首輪をつけているのは士郎のはずだった。じらされ、懇願し、屈辱に震えながらも快楽を感じてしまう。士郎はそんな体験をする運命だったはずなのだ。しかし現実には、その全てが彼女達二人の身を襲ったのではあるが。

「ええ、そうね。あのケダモノ、二人掛かりでもかなわないってどういう事よ」
「……もう、思い出させないで下さい。お願い」

 特に、経験の浅いルヴィアゼリッタにとって、それは全く予想だにしなかった世界だった。余りの羞恥に、顔だけではなく全身が上気してしまう。昨夜、ルヴィアゼリッタは、なんて恥ずかしい事をしてしまったのだろうか。

「……かわいそう。こんな柔らかい胸を、あの馬鹿はあんなに力強く揉んでたのね。痛かった?」

 優しく、癒すような手付きで胸をさする凛。マッサージじみたそれが余りにも心地よかったので、同性同士だという事も忘れて、ルヴィアゼリッタは身を委ねた。

2

 凛の体は柔らかかった。お互いに抱き締め合い、慰め合う。そんな一時もいいと思った。今は、それができる友人がいる事が、心の底から嬉しかった。

「もう、士郎ったら。キスマーク、こんな所までついてる。それもこんなに」

 ルヴィアゼリッタの鎖骨をなでながら、凛は苦笑するように呟いた。

「そう、困りましたわ。今夜、パーティーに出席する予定ですのに」

 新調したドレスは、胸が大胆に開いていた。中々に可愛らしいデザインだったのだが、試着してみせたとき、士郎が何か言いたげだったのを憶えている。ルヴィアゼリッタは少し嬉しく、微笑んだ。

 そんなに嫌だったのなら、言ってくれればよかったのに。そう考えて、しかしルヴィアゼリッタは頭を振った。あのときは執事としての士郎だったのだ。妙に律儀な所のあるあの男の事だから、きっとそんな事できなかったのだろう。その考えを聞いて、凛も微笑みながら肯定した。

 ふと見ると、凛の体にも、印が沢山つけられているようだった。鬱血の痕は、痛々しくこそないものの、白い肌にそんなものをつけるなど、とてもではないが許せないと感じるルヴィアゼリッタだった。

 生々しくいやらしい、彼なりの所有印であろうそれを、ルヴィアゼリッタは一つ一つ丁寧に舐めた。それで凛の肌が癒されるなどと信じていたわけではない。ただ、彼女のくれた優しさを返してあげたいだけだった。

「んふふ、やだ、くすぐったい」

 凛が腰をくねらせたのが引き金となって、子猫のようなじゃれ合いが始まった。カーテン越しに差し込む朝日の中、柔らかいベッドの上で全裸で絡み合う二人の女性は、若さと美しさにあふれた彼女達の肉体は、神話の世界から飛び出したニンフそのものだった。

 ふと、ルヴィアゼリッタの視界に紅の花が飛び込んできた。生々しく、本能に刺さる鋭い印象をもつその部位は、昨夜、凶悪な男の象徴に痛々しく貫かれた箇所であった。

 憶えている。果てたばかりで動けない凛の秘孔に更なる精液を注ぐべく、容赦なく蹂躙したあの男根を。ルヴィアゼリッタの喉を容赦なく犯し、涙ぐみながらも飲み干すしかなかったあの液体を。絶頂の衝撃と押し寄せる快感に、なす術もなく翻弄された凛の姿を。ルヴィアゼリッタの下腹部を貫き、彼女の身体を満たした怒濤の感覚と感情を。

 それを、受け入れるのが嫌だったわけではない。しかし、苦痛が全くなかったわけでもないのである。たとえそれに勝る快楽を与えられようとも、彼女達に抵抗があった事は否めないのだから。

「……かわいそうに」

 ぽつりとそう呟いて、ルヴィアゼリッタは注視した。周りには乾いた粘液がこびり付き、微かに開いたそこは、士郎の陰茎がはいったのが不思議なほど狭そうである。女の秘境。その奥は数時間前に放たれた白い液体で満たされているような気がして、蜜に吸い寄せられる蝶のように、ルヴィアゼリッタは唇を寄せたのだった。

 悶える凛を愛しく感じ、ルヴィアゼリッタの舌が妖しく蠢く。柔らかに誘う壁に誘われて、奥へ、更に奥へと。

3

 嫌らしい音が寝室に響いた。泉から流れ出る白濁の媚薬。それはルヴィアゼリッタの喉を潤し、胸を熱くときめかせた。昨日あれほど苦く、恐ろしく覚えたあの味が、今はこんなにも甘かった。

 とろりと流れるそれを音を立ててすすり、凛の羞恥を楽しんだ。既に別の液体、愛液までも分泌されているようだった。なんと淫らなカクテルだろうか。ルヴィアゼリッタは淑やかとは程遠い自分達の行為に、禁忌の魅力を感じて震えた。士郎が二人を責め立てる理由も、何となくだがわかる気がした。

 もがき、逃げようとする凛と、逃がすまいとするルヴィアゼリッタ。二人は絡み合い離れ合い、いつしか同じような体勢をとるに至った。即ち、お互いの花が目の前で咲いていたのである。

 二人とも負けじと士郎の名残りを舐め合い、すすりあう。それは、奪い合いにも似た激しい口戯だった。与えられた快楽を燃料に、更に更にと口を動かすのである。あたかもそれが、士郎に対する雪辱戦であるかのように。

 先に屈したのはルヴィアゼリッタだった。激しい光が脳を満たし、叫び声をあげて激しく痙攣した。思わず目の前にあるクリトリスに強く吸い付いてしまったから、次の瞬間には凛も絶頂を迎える事になったのであるが。

 二人揃って放心していた時間は、恐らく数分程度であっただろう。しかし当人達には、それは限り無く長く、そしてなんともいえない暖かい時間だったのだ。いないはずの士郎の存在感に満たされて、反目していたはずの相手と打ち解けて。正に至福の一時だった。

 目が合って気恥ずかしくわらいった。極自然な行為として口付けをすると、最後の残り香がそこにあった。凛とルヴィアゼリッタはクスクスと笑い合って、お互いの口腔とその周りを舐め合っていた。いつまでも、無邪気に。

兄者よ、寸止めだ。

今回のテーマは寸止めだ。小さいお子さんでも読めるようにしてやる。
泣いたり笑ったり―――。

            ∧_∧
     ∧_∧   (´<_`  )  寸止めだな兄者。
    (# ´_ゝ`) /   ⌒i
    /   \     | |
    /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ | |
  __(__ニつ / 金ドリル/ .| .|____
      \/____/ (u ⊃

 ずるいと思った。卑怯だと思った。酷いと思った。

 憎いと喚いた。理不尽だと叩いた。愛してると泣いた。

 この私をこんなふうに変えておいて、あんなにも優しさを教えておいて、なんで、なんでこの男は他の女と連れ添っているのだろうか。どうして私を見てはくれないのだろうか。やっぱり卑怯だ。こんな、残酷な男だと分かっていたら、……決して惚れ込みなどしなかったでしょうに。

「だから、責任を取りなさい。シェロ」

 私のベッドの上で眠るシェロ、思わずガンドで気絶させてしまった男の頬をそっと撫でた。襟首にはうっすらと鬱血の痕。それが何を意味するか分からないほど子供じゃない。こんなものを見つけてしまったから、私達はさっきまで喧嘩をしてしまった。いえ、そんな上等な物ではなかったと思う。ただ単に、私が一方的にわがままをいって泣き散らしただけ。シェロはいつもの様に微苦笑を浮かべていた。本当に最低な男だ。邪魔な女と思ってくれたなら、せめて手を上げてくれたなら、私もシェロを嫌いになれたかもしれないのに。……あなたを忘れることが、できたかもしれないのに。

もう夜もふけた。私もそろそろ眠りましょう。シェロはこのまま、ここに寝かせておけばいい。ミス・トオサカには悪いけど、一晩ぐらい独り者の気持ちを味わえばいいと思う。あの女、最近ますます士郎に甘えてくれやがっているんですから。

 失礼しますと呟いて、士郎の隣に潜り込む。ベッドくらいこの家にはいくらでもあるけれど、そんな事実はもう忘れた。そう、忘れてしまったのだ。だから私は、よりにもよって男性と同衾せざるを得ないのだ。シェロの体温に一晩中包まれて、逞しい胸板をさすりながら眠るのは、なんて恥ずかしいことなんでしょう。私にこんなことを強要させるなんて、更に多くの責任を取って頂かないといけないと思う。例えば、そう、デートなんていいかもしれない。

 おやすみなさい、シェロ。せめて夢の中だけでも、あなたに振り向いてもらえますように。

(#´_ゝ`)添い寝のシーンを子供に見せろとでもいうのか!
(´<_`  )寸止めだな兄者。

 小鳥のさえずりで目が覚めた。柔らかい朝日が降り注ぐ。まだ半分夢の中にいるような、特有の浮遊感に苛まれた。

「ふぁー」

 はしたないあくびをかみ殺して、寝巻きを脱ぎ捨てながら思案した。今日は一体、どんな服を着ようかと。白いワンピースがいいだろうか。チェックのブラウスも捨てがたい。いや待てよ。この前衝動買いしてしまった、可愛いソックスに合わせてみるのはどうだろうか。たまには変化球も面白いのだ。

「…………………………」

 おかしい。姿見の向こうには下着姿の自分がいる。彼女が履いているソックスが、どうしても私の肌色にあわないのだ。それ単体では可愛いんだけれど、どうやらこの買い物は失敗だった模様。

「……仕方ありませんね」

 しぶしぶとソックスに手をかける。

(#´_ゝ`)靴下を脱ぐシーンなんてエロ過ぎるじゃないか!
(´<_`  )寸止めだな兄者。

「うーん? あれ、ここは?」

 ベッドの方からシェロの声がした。忘れてた。いや、寝ぼけて気付かなかったのか。とにもかくにも大ピンチ。何故ってそれはやっぱり私の格好が格好だからで……。ああもう私のバカバカ。昨日の夜添い寝するようにしたのは、ほかならぬ私だっていうのに!

「うわっ! ルヴィアゼリッタ!? 一体これはどういう――」
「きゃーーー! いやっ! 見ないでください!」
「黒? ずいぶんと大人っぽ――、ぐおっ!」
 見られちゃった……。やだもう私お嫁に行けない……。

( ´_ゝ`)実はここで膝枕シーンが入るのだが。
(´<_`  )迷わず寸止めだな兄者。

「ん……?」
「シェロ。気が付きました?」

 私の膝の上で、可愛らしく目をこするシェロ。そして何かを思い出したのか、真っ赤になって硬直してしまいました。

「シェロ?」
「大丈夫。気にすることないぞ。俺はすぐ忘れるから。遠坂のを見なれてなくもないし、実はあまりよく見えなかったからさ」

 …………………………え? それは、もしかして……。

「シェロ。それは、私の体が鑑賞するに価しないと言うことですか?」
「なっ! いやっ、そうじゃなくてだな」
「ひどいです! たしかにミス・トオサカの方がスレンダーかもしれませんが! 胸もお尻も大きくてふしだらかもしれませんが! でもだからってそんなのはあんまりではありませんこと!? 私だって立派にあなたの相手を勤めることができましてよ!」
「ル、ルヴィアゼリッタ!?」
「ええい、そこになおりなさい! こうなったら特別に、私が夜伽をして差し上げますわ。この体を使って! 光栄に思いなさい!」
「い、いや……、夜伽ってまだ朝だし……」
「ごちゃごちゃ言わない!」
「ひぃ!」
「返事っ!」
「はいぃっ!」

( ´_ゝ`)特に理由はないんだが。
(´<_`  )寸止めだな兄者。

「……ルヴィアゼリッタ」
「……な、なんでしょう」
「さっきの、勢いで言っただろう」
「いっ、いいじゃありませんか。私の気持ちは何度も伝えましたでしょう?」
「だけどさ」
「何だと言うんです」
「さっきからなんにも進んでないんだけど」
「いいからあなたは黙って寝転んでいればいいんです!」

 ああもう泥沼です、泥沼。もうここまで来たら後には引けませんし、だからと言ってこれからどうするかなんて、皆目分かりませんし……。確か……、服を脱げばよかったのかしら。……いえ、でもそんな恥ずかしいことは……。

「ほら、無理しないで。気持ちだけもらっておくから。うん、ありがとう。凄く嬉しかった。だからさ……」
「私では……、ダメなのですか?」
「ダメってわけじゃないんだけど……」

 その先を、言わないでください。ダメ、私も聞いてはダメ。お願いだから、ダメなのです……。

「……それでは、なぜだと言うのです」
「……いや。ほら、俺には遠坂がいるから。あいつ以外は、見れないんだ。約束したから。ごめんな」

 ああ……、終わってしまった。最後の糸が切れてしまった。何もかもきっとこれでお終い。泣いてはダメよ、ルヴィアゼリッタ。 一つの恋が終わっただけ。だから我慢しなさい。泣かないで。これは涙じゃない。だから。ええ、私は泣いてなんか、泣いてなんか……。

「泣いてなんか、いません。シェロ、宜しいですね。私は……、涙を流してなんか、ないんですからっ……」

 ぶざまだ。緊張の糸も切れてしまった。 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトともあろうものが、決して泣いてはいけなかったのに。

「……もう終わりですね。楽しかったです。短い間だったけど、本当に。……個人的に会うことは二度とないでしょう。あなたはクビです。お給料は……、後で渡します。ですから、……ですからお別れです」

 シェロが呆気にとられている。無理もない。いきなりこんな事を言い出して、涙を流しだす女なんて無気味もいい所だろう。だけど大丈夫。終わってしまったのなら魔術師に帰れる。感情だって殺してみせる。

「もう終わりにします。ほんの一瞬でしたけど、寄り道は楽しかったです。私はこれから、魔術師の本道に帰ります。恋など忘れて、研究に励んで、頃合を見て優秀な誰かの子供を産むでしょう。そしてその子に全てを押し付けるでしょう。私の興味はそれだけになりました。もはやあなたは邪魔なんです。出口はあちらです。とっとと出ていってくださらない?」

 涙が邪魔だ。前が霞んで見えやしない。でも、声はいい。自分でも惚れ惚れするぐらい冷たい声だった。うん、大丈夫。これならシェロも怒って出ていってくれるだろう。自分勝手な女だと下げずんでくれるだろう。

 なのに、なぜ、シェロの顔がどんどん近くなるのだろうか。

「ルヴィアゼリッタ」

 ………………………………キス、された。

「ごめんな。本当に、ごめんな」

 やだ、前が見えない。初めてだってのに、こんな嬉しい経験は初めてだってのに、それを与えてくれた人の顔が、涙で霞んでしまっている。どんどん、どんどん、涙は飽きもせずに溢れてくる。もう二度と泣けなくなってもいいから、今だけ、お願い、止まって。

「そんな風に考えてたなんて、気が付かなかった。ホント、悪かった」

 ………………………………今のも、キス、だった。

 触れるだけの口付け。優しい。とろけるように甘い。麻薬のように甘い。体の一部分が触れただけで、なんで、こんなにも、全身が熱い。

「シェロ……」

 今度は私からキスをした。いまだ涙は止まらない。でも、もうそれでもいい。この人に触れているだけで、この人に触れられているだけで、全てがこんなにもたしかなんだから。

(#´_ゝ`)ここで止めるのはどうかと思うんだがっ!
(´<_`  )寸止めだな兄者。

キス、キス、キス。

 キス、キス、キス。

 触れるだけのキス、ついばむようなキス、舐めるようなキス。

 ベッドの上でキス、抱き合いながらキス。

 クスクスと笑いながら、相手を求めながら、幸せに浸りながら、キス、キス、キス。

 ああ……、知らなかったな。好きな人と唇を重ねあう、ただそれだけのことで、こんなにも胸がポカポカするなんて。

 迷いなんていらなかった。後悔は後からすればいいし、何より今は時間が惜しい。そんな、つまらないことを考えるよりは、一秒でも長くこの幸せに浸りきっていたかった。

 少しずつ強く求められ、いつしか舌を入れられた。はじめはちょっと驚いたけど、すぐに慣れて、私からもお返しをする。唾液を交換し、歯茎をなめ、舌をからめる。こんな、体の奥まで蹂躙されるような行為が、なぜかとても嬉しかった。

「ああ。シェロ、シェロ……!」

 腕をシェロの背中にまわす。もっともっと抱き締めて。痺れるほどに、痛いほどに。

 そしていつしかキスの嵐は通り過ぎ、シェロはゆっくりと起き上がった。

「本当に、いいの?」

 確認なんてしないでほしい。答えなんか決まっているんだから。 ……だけど、それをいうのは恥ずかしかった。我ながら今さらだとは思うけど、何度か口を開くだけで精一杯だったから。

 結局何も言えずに、そっぽを向いてシェロが悟ってくれるのを待ってたけど、彼はいつまでも待っていてくれた。ちょっと、いじわるではなかろうか。最後、私が小さく頷くまで、この男は何もせずに見守っていたのだから。恥ずかしさで顔中真っ赤になっているのは確実だった。

「脱がすよ」

 どうしよう。脱がされるのは、少し困る。こんなに明るい部屋の中で、シェロに体を見られてしまう。シェロに見られるのは嫌ではないけど、でも恥ずかしすぎて、少し恐い。私の体は、ミス・トオサカのよりずっと嫌らしいから。胸もお尻も大きくて、シェロが見たら幻滅してしまわないだろうか。

「シェロ……。脱がさなくても、できませんか?」
「できるけど、ルヴィアはそれでもいいのか?」

 ……あ、そうだ。初めてなんだから、中途半端な状態でなんてしたくなんてない。でも、それは服を脱がないといけないということで……。

「シェロ、地下室に行きませんか? あそこなら、脱がして頂いても……」
「工房でするの?」

 ……ホルマリン漬けや呪われた道具に囲まれて? 嫌すぎます。

「よ、夜になるまで待つとか」
「ルヴィアが待てるならそれでもいいけど」

 ……待てません。もう、泣きたいぐらい切なくて。

「大丈夫。ルヴィアの体はきれいだから」

 …………ほんとう、ですか?

「ああ、凄く見てみたい。ダメかな?」
「ああ……、シェロ……」

 今度は、私からのキスでした。

I love you. I want you. I reject you.

1

「あ……やん……、あはぁ……」

 薄暗い部屋に、淫らな女の喘ぎ声が響く。

 あれからもう、どれほどの時が流れたのだろうか。

 ルヴィアゼリッタは、一糸纏わぬ姿で安物の椅子に縛られていた。足も大きく開かれたまま固定されて、秘部を隠すこともできなかった。

 そして目の前で見せつけるように、同じく全裸の士郎と凛が延々とお互いを求めている。

「ん……、あっ……士郎、もっと……」

 舌を絡ませ、背中を抱き締め、脚を絡ませあう。

 士郎の手が凛の乳房を強く揉み、そのたびに彼女のからだがアーチを描く。

 それは最早、見ている方が泣きたくなるほど激しく愛しあう、幸せな恋人同士の営みだった。

「あぁ、ああすごい……」

 男根が凛の秘花を貫き犯す。無惨に押し広げられたようにしか見えないそこは、しかし蜜にまみれて悦んでいた。それはメスの本能というべきものなのだろうか。それとも愛している男のモノだからなのか。答えなどルヴィアゼリッタには分からなかったが、それでも、士郎の男根なら受け入れたいと願う自分がいた。そう思う自分を強く恥じた。

 汚らわしいはずの婚前交渉。決して溺れてはいけないはずの淫らな欲望。しかし、なぜだろう、今目の前で繰り広げられているそれは、極上の美酒より喉が欲して、至高の声楽より耳に甘い。ともすれば自らの貞操を投げうってしまいそうになる自身を、ルヴィアゼリッタは必死で戒める。それらは全て、気の迷いに違いないから。

 精液が最奥に注がれる度、凛は恍惚の表情を隠そうともせずにルヴィアゼリッタを見遣る。目が合う度、女として癒しようのない傷を付けられてるように錯覚して、ルヴィアゼリッタはただ目をそむける事しかできなかった。

2

「私、今度結婚する事になりましたの」

 少し唐突すぎたでしょうか。私の言葉がミス・トオサカの時を止める。カチャン、と落ちるティーカップ。テーブルに広がり、絨毯に落ちる紅茶の雫。ああ、早く拭かないと落ちなくなってしまうかも。ミス・トオサカの安アパートに高価な家具などあるはずもないですが、買い物にでてるシェロが帰ってきたら、きっとこれを見て哀しむでしょう。

「まったくもう。雑巾はどこでしたっけ」
「…………ルヴィア、いま……、なんて?」
「結婚するといったのです。ああ、それより染みになってしまいますわ。早く雑巾を」
「んな安物どうでもいいわよ! だからっ、答えなさい。嘘よね。嘘でしょ。アンタわたしをからかってるのよね?」

 妙に食い付いてくるミス・トオサカ。その目はどう見ても真剣で、どうしたことでしょう、なぜか悪い事をしている気持ちに襲われます。

「嘘などついてどうするのです。実家から連絡がきました。私、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは来月結婚の儀を行います。諸条件の交渉は既に済ませてあるそうですから」

 これで宜しくて? と簡潔にいうと、ミス・トオサカは何かに絶えるようにフルフルと肩を震わせて―――。

「相手の顔は? どんな性格? せめてそれぐらい知ってるんでしょう?」

 無礼にも、私の襟を掴み上げました。

「存じませんわ。相手の方とは一度もお会いした事がありませんし、実家からは写真も送ってきませんでしたから」

 名前を、……そう、なんとおっしゃいましたか。相手の方の名前を知らせてきたのですから、上等な部類に入ると思うのですが。

「で? アンタ、それで納得してるわけ?」
「もちろん。魔術師の結婚で他に何を求めるというのです。もう……、いいかげんにこの手を放していただけません?」

 そう。顔もしらぬ男との結婚を告げられたとき、私は特になんとも思いませんでした。いつか来るとは思ってましたし、それが当然だとも信じていましたから。実家の判断に信頼を寄せていたことも勿論ありましたし、事実、添付されたデータはまずまずだったのです。

 そう説明しつつ無礼な手を振りほどこうとするものの、更に強く掴んで詰め寄ってくる。この女、いつまでも調子に乗ってると―――。

「士郎は?」

 ―――シェロ?

「ルヴィア、あいつを気に入ってたんじゃないの?」
「ミスタ・エミヤなど、関係ないでしょう」

 第一あの方は他ならぬあなたのパートナーではありませんか。今さら私なんかが慕ってもどうにかなる方ではありませんし、高貴な血を引かない彼では慕う事自体が許されません。

「許されない、ですって?」
「違いまして? よもや、エーデルフェルトの家名の重みを、知らないわけでもないでしょう」
「違うに決まってるじゃない。アンタ、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどまさかそこまでっ……!」

 あまりの無礼に私が激昂する直前、打撃が脳髄を揺さぶりました―――。

3

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトにとって、遠坂凛は友人というよりライバルに分類される。付き合い自体は短いが、それを補ってあまりある事件に恵まれた為、彼女のことは大抵を知っていると自負していた。……無論、敵として。

 しかし、彼女にその事を告げたときの反応は、全くの予想外だったのである。

 まあ、要するに甘かったのだ。いや、それも仕方がないと云えるだろう。なにせ結婚すると告げた直後、襟首掴つかんで渾身の頭突きを食らわせるなどとは、どれほど付き合いが長くても予想不能であろうから。

 挙げ句、衣類と魔術と体の自由を奪われて、気が付けば士郎との秘め事を延々と見せつけられている。

 曰く、ルヴィアゼリッタがどれほど馬鹿なことをしようとしているのか、思い知らせてやるとの事だった。

「ミス・トオサカ、もう……」
「もう、何? どうしたの?」

 限界だった。否、限界などとうの昔に超えていた。だらしなく喘いで、恥知らずにも身をよじらせて、はしたなくも乳首を尖らせて。秘裂からこぼれ出る淫らな密は、いっそ死にたくなるほど大量だった。

 かつて、これほど破廉恥なエーデルフェルトの娘がいただろうか。淫乱きわまりない淑女などどこの笑い話の登場人物だろうか。ルヴィアゼリッタは涙を流し、決してしてはいけない懇願を今すぐしたくてたまらない。

「なあ、遠坂―――」
「士郎は黙ってて。これはルヴィアの為なんだから。で、そろそろ決心はついた?」

 抱いて欲しい。その一言で終わるはずだ。この苦しみが、この快楽が。士郎はきっと優しく受け入れてくれるだろうし、それは決して嫌ではなった。むしろ、ルヴィアゼリッタ自身は否定したがっていたが、心の奥底では望んで止まぬ事だったから。

「だ、誰がこんな卑怯な事に……」
「ふーん。強情ね。体はこんなに正直なのに」

 それでも、ルヴィアゼリッタは折れはしない。つまらない女の意地。頭の固い魔術師の常識。いままで彼女の表層を構成していたものにしがみついたまま、目の前の秘め事を否定し続けるしかなかったのだ。例え時間の無駄と知っていても、唇を噛んで自分を殺して。

 もし屈してしまったらきっと、士郎抜きでは生きられなくなってしまうから―――。


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