学校の教室で、珍しく幸村がぷりぷり怒っているのを
私は、紙パックジュース片手に眺めている。
「なーにぷりぷりしちゃってんの幸村」
放課後の教室には、もう幸村と私しか残っていない。
皆部活に行くか、帰るかしてしまった。
彼は、部活のコーチが休みなので、珍しく部活が無いのだといって
私は彼と遊びに行く約束をしていたのだけれど。
幸村はなおも機嫌悪そうな顔で、話しかけた私を見る。
「下駄箱に」
「うん?」
「下駄箱にチョコレートが入っていたでござる」
「あぁ、バレンタインだから」
今日は二月十四日。
学校でも、もてる方の部類に入る幸村の下駄箱に
チョコレートが入るぐらい驚くことじゃない。
ただ、一瞬その言葉に私の心臓が跳ねるのは、私が他の女の子達のように
幸村の下駄箱に、チョコレートを入れたからで。
「で、どうしたの。それが。紙袋いるならかそうか?」
ただ、それを今言う勇気はなくて、私が何食わぬ顔をして言うと
そうではござらんと、幸村が返す。
「紙袋なら、すでに佐助に貰っておる」
(………佐助、あんた…どこまで用意がいいの…)
「ただ某言いたいのは、どうして食べ物を下駄箱に突っ込むのかという
その一点にござる!!」
「………あー………」
段々ヒートアップしてきたのか、こちらが耳を塞ぐような声で
幸村が叫ぶようにして言う。
幸村の言いたいことを理解して、私は思わず呻き声を漏らした。
そうか…それで普段ならば破廉恥!と叫んで回ってそうなこいつが
こんなに怒っているわけか。
盲点というか、忘れていた。
そういや、そうだ。
下駄箱は靴入れだ。
そんなところにチョコレートつっこまれても…ねぇ?
私は幸村の机の上に乗った、様々な包装のチョコレートを見る。
どれもこれもおいしそうではあるけれど、そう言われて
下駄箱に入っていたことを思うと、ちょっとだけ、躊躇われるのは確かだ。
「…でもさぁ、食べないの。それ」
ただ、女の子側からしてみると、口もつけられずに捨てられるというのは
酷く残念というか、同じく下駄箱組みの私としては
非常にそれは心が痛い。
頼むから、包装解く位の事はして欲しい。
多分みんな、甘い物好きで有名な幸村のために
一生懸命選んだんだろうし。
全部食えとは言わないからと思っていると、
幸村がぶすくれた顔で
「食べないとは言ってないでござる」
「あ、食べるんだ」
「某が腹を立てているのは、食べ物を粗雑に扱っていることに対してだ。
その某に、食べ物を粗末にする趣味があると思っておるのか」
「あ、そっか、そうだよね。良かった。
ごめん、次からは違うとこ入れるわ」
安堵に、ついぽろっと余計な言葉が零れた。
幸村はそのぽろっとに気が付かず、そうしてくだされと言って
それからたっぷり十秒置いてから、こちらを勢い良く振り返る。
かぁっと、彼の顔が真っ赤に染まって、
デフォルト殿、それは、あのだとかまともに言葉が喋れなくなった様子の彼から
私は思いっきり目をそらした。
…しまった、間違えた。
こんなところで告白するつもりなんてなかったのに。
多分、帰り道で追求して(ひょっとしたら今からかもしれない)
誤魔化すことを許してくれないだろう幸村に、私は窓の外を見る。
薄暗くなり始めた外を見ながら、私は今が夕方だったら良かったのにと思う。
夕方だったら、この顔が赤いのも、全て夕日のせいに出来ただろうに。
言い張ることすら
許されない。
(どどど、どういう意味で言っているのだ、それは!?)
(うるさいうるさいうるさい!!)