何故だかパンパンに膨らんでいる鞄を前に、佐助は言葉も出ない様子だった。
どうして、帰ってきたらいきなり、鞄が膨らんでるんだから
そりゃあ驚くだろうよ。
やった張本人である名字デフォルトも、そのパンパン具合は目を見張るものがある。
チャックが閉まるのも精一杯。
はちきれんばかりに、何かが詰まった鞄を佐助が見下ろして
ごくりと唾を飲んだ。
そして、おそるおそる、チャックに手をかける。
ジジィッという音を立てて、鞄の蓋が左右に開いて………
「…なにこれ」
「あははははは、あは、ははははは!!」
佐助の間の抜けた顔に、名字デフォルトは彼を指差して笑う。
あの、間抜け面!
その名字デフォルトの反応に、誰がやったか分かったらしく
佐助は間抜け面のまま名字デフォルトの方を向いて、鞄を指差す。
「あのさ、なにこれ」
「鞄」
「いやいや」
「じゃあ、チョコレート」
「いやいや、ほんと見れば分かるから。それは」
たしなめる口調が、まじオカン。
とてもとても高校生のものとは思えないそれに、ますます笑いをこみ上げさせながら
名字デフォルトは彼に向かって両手を広げて、満面の笑みで叫ぶ。
「ハッピー・バレンタイーン」
「……………」
しかしながら、彼は無言だった。
というか、ものがなしそうな顔をしている。
「…なに、辛気臭い顔して。女の子からのチョコレートだよ、佐助君」
「いや、うん。まあ、それはそうなんだろうけど。これ、徳用チョコだよね」
「しかり」
「いや、しかりじゃなくて。バレンタインに、徳用チョコレート貰って嬉しい男がどこに居るっていうの」
「嬉しくない?鞄一杯にチョコレートだよ。多分真田君なら、涙ながらに喜ぶよ」
「旦那は名字デフォルトの中でどういう扱いなの、一体」
「そういう感じ」
「あっそう」
まぁ、旦那だから…と呟いた彼も、またひどいと思うのだが
名字デフォルトはそれには触れずに、嬉しくない?と首を傾げた。
「………ていうか、ね」
「うん」
「……………やっぱり、貰うんだったら、本命がいいじゃない。
これ、義理チョコでしょ」
「え、本命だよ?」
鞄一杯に詰まった徳用チョコ(袋五個分)を見下ろしながら
ため息をついた佐助に答えると、彼は失礼にもはぁ!?と素っ頓狂な声を上げる。
「ほ、本命?!徳用チョコレートなのに!?」
「本命本命。だって五袋分だよ?」
「数の問題じゃないって!ちょ、本命でこれなの!」
「これです、YES!!」
「YES!!じゃないだろ、もー………」
文句をたれながら、しかし佐助は袋を開けたときに零れた徳用チョコを拾って
鞄の中に詰めなおす。
その耳が赤いのを見て、にんまりと名字デフォルトは笑うと、彼につつぅっと近づいて
「耳が赤いぜ、ベイビー」
囁くと、顔を引きつらせた佐助に、頭を抱きこまれて抱きしめられてしまったので
名字デフォルトはくふふと笑い声を漏らす。
上から、どこで間違ったかなぁと、声がしたので最初からですと名字デフォルトは答えた。
好きになったのが、
間違い。
(ていうか、当人がそれを言うっていのがね…)
(まぁまぁ、諦めなさいよ。オカン)
(………)
(あいてててて!!)