音楽の授業は、大抵やるきがない。
歌を歌うのも、テスト前の数回だけで、後は大体オペラとかの鑑賞とか
はたまた、全く関係ない映画なんかの鑑賞だとか。
とにかく楽だ。
先生が黒板の前でぼんやりとし、他の生徒達がひそひそと喋ったり眠ったりするのを
視界に入れながら、私が長曾我部君にチョコレートを渡す理由という物が
存在するのかどうか。
私は考えている。
いやいや、勿論世の中の女性に、理由もないのにチョコレートを男性に贈るな
といっているのではない。
今日はバレンタインデーだ。
贈る理由がなくとも、女性は男性にチョコレートを贈っていい。
ただ、私が渡す大義名分とか、そういうものが欲しいだけであって。
私はちろりと横目で隣に座る長曾我部君を見た。
音楽の選択授業で隣に座る彼とは、おそらく友人関係という奴にある。
席が近いから喋る。
すこぶる仲が良い、というわけではないぐらいの近しさの、友人。
「………長曾我部君は、誰かに友チョコ貰ったりするの」
「友チョコ限定かよ…」
探りを入れようと質問すると、こちらを見ないまま、長曾我部君が顔をしかめる。
うーん。
そういわれても、友チョコ名義で渡したい(本命という勇気は無い)のだから
友チョコを貰ったりする?で質問の意図はあっている。
他のチョコレート、本命チョコの数なんか聞きたくもない。
私は素知らぬ顔をして、口を開く。
「ほら、あれ。本命の数とかそんな下世話なことは聞きたくないし」
「じゃあなんで友チョコは聞くんだよ」
「え、それはほら。…アニキ!って呼ばれてるじゃない。
あの人たちからは貰ったりしないのかなって…」
「してどうする!あいつら全員野郎だろうが!」
「しないの」
「しねぇ!」
猛烈に否定されてしまった。
うーん。
調査失敗。
仕方が無いので、私は一緒に持ってきた鞄を漁ると
チョコレートの包みを取り出して、長曾我部君の前においた。
一応、音楽の授業中なのでこっそりと。
彼は一瞬不思議そうな顔をしたが、それが何かを悟って、驚いた顔をした。
「あげる。友チョコ」
しかし、私が軽く聞こえるようにそういうと、
ぴくりと彼がチョコレートに伸ばした指先が止まる。
けれどもそれも一瞬のことで、長曾我部君はいつものように男らしくにやっと笑うと
あんがとよ、デフォルト。と礼を言う。
男くさいその表情に、私は心臓が跳ねて、顔が赤くなるのを止めながら
日々のお礼と、にこりと笑った。







お互い素直じゃないですね。





(本命じゃねぇのかよ。チョコをもらえただけで感謝しろって?)
(来年は、本命で渡そうかなぁ)