生徒会室にて。
パソコンとにらめっこしている、毛利元就の前に、デフォルトはマグカップをおいた。
「どうぞ、元就」
「………コーヒーではないようだが」
一瞥もせずに言う生徒会長に、デフォルトは苦笑をしながら
「ほらぁ、バレンタインだから」
と答える。
机の上のマグカップからは白い湯気と、中身のホットチョコレートの甘い甘い良い匂い。
元就は、一瞬デフォルトの言葉に手を止めた後、またぱちぱちとキーボードを叩き始める。
「我は、甘いものはそう好きではない」
「知ってる」
「知っていて何故寄越す」
「それを言わせるのは、あんまりにも甲斐性なしってもんよ」
くすりとデフォルトが笑うと、元就はつまらなそうに、ふんっと鼻を鳴らした。
下らぬと、呟いた彼の言葉にデフォルトは傷つくことは無い。
それも全て織り込み済みで渡しているのだ。
「好きよ、元就」
「…………………………少し黙れ」
ぱちっと、キーボードの音が鳴って、止む。
元就はほんの少しだけため息をついて、それからマグカップに手を伸ばした。
口元まで運んで、一口啜った元就は「甘い」と非常に嫌そうな表情を浮かべる。
「それも愛、これも愛」
「黙れと言った」
冷徹と、他人に評される顔が歪む。
滅多なことでは表情を崩さない元就の、その表情を眺めながら
デフォルトはくすくすと笑った。
そう、笑ってしまう。
だってそんなことを言いながら、元就のほっぺたは、見事に赤いのだもの。
「来年は、普通のチョコレートの方が良いのかしら」
「どちらでもよい」
「贈らなくていいとは、言わないのね」
「何故、わざわざそのようなことを言わねばならない」
ホットチョコレートを啜る音。
眉間に皺をよせながら飲む元就に、デフォルト
「無理に全部飲まなくても良いのよ」
と声をかけたが、彼は
「無理など誰がするものか」
と、デフォルトの気遣いを一蹴した。
その言い方は、非常に元就らしい、嫌みたらしいものであったが
ほっぺたが赤いままなのが台無しすぎた。
デフォルトが彼の方へ椅子ごと近づいて、元就の肩に頭を乗せると
元就はやはり眉間に皺をよせたまま、ホットチョコレートを飲みきった。






こういうところが好きなのよ。


(でも、来年は甘さ控えめの奴にするわ)
(…………好きにしろ)