石田三成という生き物は、生物としてどこかおかしかった。
食べ物は食べぬし、睡眠もとらぬ。
それだから、体はやせ細っていたし、眼光は鋭く
険しい顔つきで周囲を威嚇しては、誰しもをにべもなく切り捨てている。
…いや、最初の一つ以外は、それだからと続けるのも
おこがましいような内容であったが、まぁとにかく石田三成とのは
そういう生き物なのだった。


であるから、無論、健康診断にも引っかかる。
食べてないのだから、痩せるのは当然で
彼のその痩せ度合いと言うのは、レッドシグナルが点灯する域にさしかかろうとしていた。
…そういう旨の電話を彼の担任から受けた、三成の義姉のデフォルト
ため息をつきたいような気分であった。
前々から痩せているとは思っていたけれども
まさか注意を受ける域までとは。
「…ということでね、もう少し食べてくださいって
担任の先生からお達しがあったのだけれども」
「姉上の気になさることではない」
「………おっと」
こたつにはいりながら蜜柑の皮をむき
どうでも良い風を装って言った言葉は、やはり切り捨てられる。
予想の範疇であったから、がっかりはせずに
まぁそうだろうと当たり前にデフォルトは受け止めた。
この義弟は、そういう風な、人の反応を気にせずに
思ったことを思ったまま言う所があるから
いちいち気にしていては身がもたない。
その代わり、思ったことを思ったまま言うから
慕う人には激しく忠犬の様な言動をするのだけれども。
神のように崇め慕っている、彼のごつい先輩と細い先輩の
二人の姿を脳裏に描きながら、デフォルトは剥いた蜜柑を三成の口に運びながら
「…でも、家だとちゃんと食べるのに、どうして高校では
お昼を抜いたりするの、三成」
「姉上の作ったものではないからです」
口元まで運んだ蜜柑を食べて、三成。
「じゃあ、私がお弁当を作ったら食べてくれるの」
もう一房口に運びながらデフォルト
それを口に入れながら、三成はデフォルトの指にこぼれた蜜柑の汁を
何気ない顔をして舐めとる。
そうしてデフォルトの方もデフォルトの方で、それを当たり前に受け止めて
どうなの、と彼に促した。
「…姉上が作ってくださるのであれば」
そうして、促した義姉の言葉に三成が返したのは
素直な承諾の言葉で、デフォルトはじゃあ明日からねとごく普通に笑う。
…蜜柑を口に運ぶのも、それを抵抗なく食べるのも
汁がこぼれているからと舐めるのも、それを抵抗なく受け入れるのも
義姉と義弟であればおかしな話だが、本人たちはそれに気がつかず
三成は何が好きだったっけ、唐揚げ?などと暢気な会話をして
こたつに入ったまま、まったりとした時を過ごすのだった。




これは、そういう石田さんちの御姉弟の、なんでもなくどうでもいいお話。



(義)弟となんでもない日々(三成編)